Side朔夜

まず、凪波との過去をできる限り洗い出す。
脳を深く旅をするかのように、彼女の透き通る、心地の良い声で紡がれた言葉1つ1つ呼び起こす。

「……実鳥」
そんな名前の親友がいたことを思い出す。
高校で1番仲が良かったと言っていた。
自分が東京に出るきっかけになったとも、言っていた。
……家を出てから1度も会ってはいないとも……。

僕はすぐに、InstagramやTwitterを確認する。
事務所の命令で自分の名義のSNSは、全て事務所の人間が代行でやっている。
でも、1個だけ誰にも秘密にしていた鍵アカウントを持っている。
今まで1度も使ったことがなく、ただ凪波の投稿をたまに眺めるためだけに使うもの。

ちなみに凪波は「見られたくないから嫌だ」と、直接アカウントを教えてくれなかった。
けれど、僕は載せている写真とアカウント名から、すぐに凪波のアカウントを特定する事ができた。それくらいは、僕にとっては序の口だ。

……いつもしっかりしているくせに、こういう、少し抜けているところがあるところも、凪波に夢中になった理由。




ログインして確かめてみる。
すでに凪波が使っていたアカウントは全て消されている。

頭をすぐに切り替える。
僕は、「実鳥」を探す。
漢字が少し特別で、凪波は友人の名前が羨ましいと言っていた。
まるでどこへでも自由に美味しいものを求めて飛び立てるような名前だと……。

「実る……鳥か……」

僕は凪波に言われて始めた「人物のペルソナを考えた」をした。

いつも漫画のことで話をしていたという友人。
いつも美味しいおやつを二人で食べていたという友人。
……食べ物のアカウントか?

僕は、食べ物系の写真を投稿している「実鳥」という人物の検索を始めた。
結果はすぐに出た。
やはり特殊な名前だったこと、そしてその名前の人物が投稿した写真の風景の一部に、凪波の故郷だという街の景色がチラリと写っていた。

……彼女かもしれない……。

アタリをつけた僕は、早速用意していたアカウントを設定する。
怪しまれないようにするには、実鳥と同じような人物を演じて近づけばいい。

俺は、適当な「女」の名前でアカウントを作成した。
急に男のフォロワーが増えたら、こういう人は怪しんでブロックされてしまう。
それは困る。
プライベート写真を投稿するときに、鍵アカウントにする女も多いと聞く。
この実鳥がそうじゃないとは限らない。
慎重にいいねをして、コメントを残す。
相互フォローにはならずとも、鍵さえかけられなければ良い。
きっとここに凪波に繋がるヒントがある。

僕の第六感は、そう言っている。


何事も、用意周到に。
先の先を読む。
……全部凪波が僕に教えてくれたこと。

凪波の痕跡は、確実に僕の中にある。