Side朝陽

「ろ、ロボット……?」

そうであって欲しいと思った。
まだ、そっちの方が受け入れられると思った。
こんなものが、生きた人間であっていいはずがないと、思った。

「彼女のどこが、ロボットなんだい?君の目はどこについているのかね」

本気で言っているんですか。

喉から出かかって、言うのをやめた。
そうしないといけない気がしたから。
それに、俺の服の裾を、咄嗟に藤岡が掴んだ。
藤岡の目が言っている気がした。

やめて。何もしないで。

と。
俺が次の言葉に迷っていることなど気に求めていないのか、悠木先生は雪穂と呼んだロボットのようなものを大事そうに撫で回していた。

「雪穂、怒っているのかい?君は失礼なことを言われるのは、とても嫌いだったからね。彼に謝ってもらった方が良いかな」

俺からは、雪穂と呼ばれたものが、とても意思表示をしたように思えなかった。
目はしっかりと閉じられており、口もしっかり閉じられている。
そして、眉毛から上はごっそり顔がない。
眉毛が、どれだけ表情に影響をしているのか、俺は雪穂を見て実感した。
怒りも、悲しみも、喜びも一切受け取れない、壊れた人形。
マネキンの方が、ずっと人間らしいと思った。

「海原君、よかったね」
「何が、ですか……」
「雪穂は本当に優しいからね。君のこと、怒ってないってさ」
「え……」

どこからどうみても、雪穂が悠木先生に何らかの意思表示をしたとも、とても思えない。
にも関わらず、悠木先生は

「1人だったんだね、寂しかった?」
「今日は庭に新しいバラが来たんだ。早く君にも見せたいよ」

と、次々雪穂に話しかけながら繰り返し、雪穂の体を覆う機械にキスをし続けていた。
俺にとって悠木先生は、かっこいい大人の男性だった。
頼れる医師でもあり、こんな大人になりたかったと、羨ましがったのも1度や2度じゃない。

でも、今目の前にいる悠木先生はどうだろう。



「ねえ、雪穂、まだ僕に答えてくれないの?早く、僕を好きだと言って」




見た目は全く変わってないのに。
急に子供になったような気がした。