Side朝陽

藤岡は、頷いた。
それから藤岡は、悠木先生に縋り付くように

「お願いです。約束は必ず守りますから、葉を……返してください!」

と、捲し立てた。
そういえば、葉がいない。
何故このタイミングまで、気づかなかったのだろう。

「おい、葉を……葉を……」
「返すのは私ではない。それに君は、まだ彼に放棄させていないではないか」
「必ず私が、何とかします!だから」
「いや、君には期待していないよ。だから私が、彼を連れてきたんだ。君は、背後から海原君が暴れないように見張ってくれればいい」
「その言い回しだと、俺が暴れる前提があるみたいですね」

俺の言葉に、悠木先生は笑った。
とても、愉快そうに。
その顔が、相手を見下している時の顔であることは、一路の表情の変化を通じて学んだ。

「まあ、君が暴れたら、凪波さんはすぐに貰うから、それでもいいがな」

悠木先生はそう言いながら、俺の目の前で扉を開き、中に入っていった。
真っ暗な空間の中に、電子機器の小さな灯りがポツポツと灯っている。
それは、凪波がいた部屋と同じように見えた。

それから、臭いがまた変わった。
薬か消毒液のようだと思ったが、嗅いだことのない不気味な臭いだった。
もし、今胃に何か入っていたら、全て吐いていただろう。

だんだん、その臭いの元に近づいているのが分かる。
目的地がそこなのも、分かる。
臭いが近づくにつれ、悠木先生が歩く速度がどんどん速くなった。
そうして、また少し歩いてから、悠木先生が立ち止まった。
俺の目の前には、天井からたくさんの太いチューブに繋がれた繭のような黒っぽい何かが現れた。
まだそれが、何かも分かっていないのに、嫌な予感が体中を占めた。

「どうした?」

悠木先生が聞いてくる。

「これは一体なんですか?」
「失礼だな、これではなく、彼女と言ってくれないか。物ではないんだよ」
「でも、これは……」

人ではない。
物だ。
機械だ。
決して現実の世界に適したような機械ではなく、まるで昔の特撮に出てくるようだと思った。
ちらと藤岡を見ると、藤岡は顔を背けていた。

やはり、藤岡は知っているのだろう。
これが何か、ということを。

悠木先生は、俺と藤岡を交互に見ながら、ふっとため息をつくように微笑んだ。
それから、その機械を愛おしそうに触れたかと思うと

「ごめんね、雪穂」

と悠木先生が囁いたのが聞こえた。
それからすぐ。
機械に組み込まれていたのか、蓋らしきものが開いた。
中から出てきたのは……。


「うわあああああああ!!」


凪波と同じように、脳をむき出しにされたまま、裸の少女が、液体の中で静かに揺れていた。
凪波と違うのは、脳の一部が欠けているところ。
そして少女の体のほとんどに機械が埋め込まれていた。

SF映画に出てくる、人造人間のような姿が突然現れたことで、腰を抜かしてしまった。