Side悠木

何故、人間というものは、愚かな生物に成り下がったのだろう。
失った後で、失ったものを取り戻そうと足掻き出す。
今在るものに、感謝もせずに。

私には、何を犠牲にしても取り戻したいものがある。
この腕で抱きしめたいものがある。
それを決意してから、無数の季節を何度も虚しく過ごしていった。

でも、そんな日々はもう終わる。
今日、この日のために私は全てを犠牲にした。

もう、誰にも邪魔はさせない。
全ては私の思い通り進んでいる。

このプロジェクトには、私と彼女のための生贄が必要だった。
その生贄は、自分から私の元に現れてくれた。

誰が、逃すものか。
誰が、無駄に捨てるものか。

神であろうとも、もう私を止めることは許されない。
私から彼女を奪おうとしたの神だとしたら。
私は、その神を凌駕する存在になると、決めたのだから。



「もうすぐだ、雪穂」


私は、あと数時間後には私を見てくれるであろう瞳を想像して、胸が高鳴った。
君は、今の私を見たら、どんな表情を浮かべてくれるのだろう。
また、ゴキブリを見るような目をするのだろうか。


それでも構わない。
君の瞳に、私がもう1度映る日が来るのならば。