Side朝陽


凪波の言葉は、これが全て。
最後は、涙で滲んでほとんどちゃんとした文字になっていなかった。
俺が解釈した文字が、その通りなのかすら、今は確認をする方法がない。


でも……。
それでも、感じ取ってしまった……。
分かってしまったんだ……。

凪波がどれだけ苦しんでいたのかを。
凪波の、一路への深すぎる想いを。
それは、自分の身を犠牲にするほど……。


だとしても、だ。



確かに最初は、一路や、凪波に復讐をしたという存在に対する憎しみ、恨みで俺の心が溢れそうになった。
一路については、さっき分かり合えた気がしたから、なおさらだ。

どうして、凪波の違和感に少しでも気づいてくれなかったのか。
お前さえ気づいてくれれば、今こんなことにはなっていないのに、と。

だけど、俺にはどうしても違和感が残ってしまったのだ。

もし、俺が凪波と同じ立場だったとしたら。
1人で誰も頼れず、暗い闇の中で耐えていたとしたら。
その上で、誰にも言いたくない秘密を抱えてしまったとしたら。


俺は、ここまで残すだろうか。
確かに、俺も仕事上業務日誌はつけている。
いつ、どんなことをしたかが可視化できれば、数ヶ月後に起きた出来事だったとしても、因果関係を見つけ出せる確率が高くなるからだ。
だから、凪波の目的が有名な声優になることだったとして。

そのためにどんな訓練をしたのか。
どんな作品に出ることができたのか。
反省点は何か。
次に活かしたポイントは何か。

という内容が記録されていたとすれば、日記をつける意味は確かにある。

だけど、今手元にある凪波のメモはどうだ……?
これを書くことで、後で見返すことで、凪波は自分の辛い経験と向き合わなくてはいけない。
苦しみを、罪悪感を抉るような行為を、本当に自らするものなのだろうか?

少なくとも、俺ならそんなことはしない。
できない。
自分の醜さと、自分の意思で向き合うなんて。


そこまで考えて、俺はようやく、自分の違和感を脳内で言語化することができた。



この文章は、本当に、凪波が自分の意思で残したのだろうか……?
わざと、これを書くように仕向けられたのではないだろうか……?




next memory……