memo凪波

あの人は、だんだん私と暮らしていた部屋に戻って来れなくなった。
いっそ、そのまま私の手が届かないところへ行ってしまってくれたらと思った。
願った。何度も繰り返し。
でも、あの人はそうしなかった。
ちゃんと、戻って来てしまう。
週1でも、月1だったとしても、あの部屋に帰ってくる。
抱きしめて欲しいと、私に縋ってくる。
抱きたいと、私を求めてくる。
その度に、理性の私が断れと警告し、本能の私が受け入れたいと叫ぶ。
結果として、本能が勝り、あの人の身体を求めてしまう。
そうすることで、また黒が白に塗り替えられると思ったのかもしれない。
前に、そうしてくれたように。
でも、ダメだった。
何度あの人が抱いてくれても、愛してくれても、私の過去が消えることはなかった。
私は、あの人が丁寧に愛してくれた体を、次の日には他の男に捧げていた。
こんな私を、いっそあの人が知ってくれたら、私はあの人から解放されるのだろうか。
罪悪感から逃れられるのだろうか。
でも、この罪悪感が誰に対してのものなのか、分からない。
今私が償うべきは、一体誰なのだろう。
そんなことを考えることすら、汚れ切った私には許されないのかもしれない。
いっそ、心が無くしてしまえたら。
全ての記憶を消してしまえたら。

あの人に愛されたことも。
あの子の夢を奪ったことも。
だんだんと汚れていく自分も全て無かったことにできるのだろうか。




誰か、私の脳みそを食べてしまってくれないだろうか。