memo凪波

あの人は私にいつも愛していると言ってくる。
私は、ありがとうと答えるようにしている。
そうしないと、返事を急かすように私に触れてくるから。
少し前だったら、あの人と私のそんな関係性も悪くないと思っていたけれど今は違う。
これ以上、愛しているとあの声で言われるのが怖い。

あの声は麻薬のように、私の体に染み付いてくる。
あの声に、私の名前を呼ばれ、愛していると囁かれなくては生きていけない体になってしまうのではないかと思うくらいには、私はあの人の、私だけの声を欲するようになっていた。

ミイラ取りがミイラになるという言葉の凄さを、私は体で感じている。
あの人と離れている間は、理性は安心を、本能は寂しさを覚えている。

あの人が憎い。
あの人が欲しい。

あの人さえいなければ。
あの人がいたから。

そんな矛盾した気持ちを、私はいつまで抱えていけばいいのだろう。
すでに1つ、解決法は分かっている。
その方法は、社長から提示されている。

あとは、あの人にそれを受け入れさせるだけでいい。



そうすれば。
私はきっとあの人を徹底的に憎むことができる。
そうすれば私は救われる。
自由になれる。
あの人から。