Side朝陽
それからのページは、延々と一路朔夜がどんな仕事をしたかと、その反省点が事細かに書かれていた。
いつ、どんな作品をどんな役で演じたのかという事実を記載してからの、良かったところ、良くなかったところ、それを伝えて一路朔夜がどんな反応をしたのか、そして一路朔夜が次どういうふうに直したのかということが、細かく書かれてあった。
中には、俺がハマったアニメもいくつかあった。
ファンとしては、その作品の裏話を覗くことができて、ほんの少しだがラッキーと思ってしまった。
まさかこんなところに凪波が関わっているなんて、思わなかったが。
まるで、俺が毎日つけている林檎の観察記録のようだと、思った。
いつどんな手入れをしたのかが、すぐに分かるようにつけ始めた記録だった。
これは、ちょっと油断するとすぐに忘れてしまいそうになった。
だけど、あの記録をつけることで、何か問題が起きた時もすぐに確認をすることができるので、今では記録を付けない方が気持ち悪いとすら、思うようになっていた。
観察記録に観察対象の意思はない。
対象物をじっくり観察して、客観的な記録をつける。
だから、対象者ではなく、観察者の主観は否応無く入ってくる、はずだった。
俺は特に、そんなに作文が得意じゃなかったから、最初は小学生の作文か、と思うくらいひどい内容だった。
綺麗な花が咲いて嬉しかった。
台風が来て、対処が大変だった。
きっと文章のプロが見ると呆れるくらい、拙い文章。
読み返すのはとても恥ずかしいが、でもわかることもある。
その時、どんな気持ちで観察対象に向き合っていたか、だ。
自分の感情がどれだけ観察対象に影響が出るかは……本当のところはわからない。
でも、マイナスな気持ちで記録を書いていたときよりは、ポジティブな気持ちで書いていた時期の方が、良い林檎が実っていた気がする……ということを感じることはできた。
それに気づいてから、俺は林檎と向き合う時はどんなに辛くてもポジティブな気持ちに切り替えようという努力を始めた。
その結果だった。
凪波のための林檎を作ることに成功したのは。
だけど、凪波のこの記録には、凪波の感情があまり読み取れない。
もちろん、一路朔夜へのアドバイスはびっしりと書いてあったけれど、そこに凪波がどう思ったのかのリアルはわからない。
呼吸がおかしい。感情が伝わらないなど、凪波がいかに演技に厳しかったかだけは感じ取ることはできたが。
凪波は、この作品を一路朔夜が演じた時……感動したのだろうか?
嬉しかったのだろうか?
といった凪波の表情が記録からは欠けていた。
まるで、意図して凪波がそれを排除したのではないかと疑うほど。
記録は、半年以上前の人気作……俺もDVDを集めた作品のところまで書かれていた。
だけど、次のページをめくった時、俺はページを閉じたくなった。
ページいっぱいに細かく書かれていた死にたいという言葉と、それを打ち消すようにぐしゃぐしゃにボールペン全体を塗りつぶしたページが見開きで現れたから。
それからのページは、延々と一路朔夜がどんな仕事をしたかと、その反省点が事細かに書かれていた。
いつ、どんな作品をどんな役で演じたのかという事実を記載してからの、良かったところ、良くなかったところ、それを伝えて一路朔夜がどんな反応をしたのか、そして一路朔夜が次どういうふうに直したのかということが、細かく書かれてあった。
中には、俺がハマったアニメもいくつかあった。
ファンとしては、その作品の裏話を覗くことができて、ほんの少しだがラッキーと思ってしまった。
まさかこんなところに凪波が関わっているなんて、思わなかったが。
まるで、俺が毎日つけている林檎の観察記録のようだと、思った。
いつどんな手入れをしたのかが、すぐに分かるようにつけ始めた記録だった。
これは、ちょっと油断するとすぐに忘れてしまいそうになった。
だけど、あの記録をつけることで、何か問題が起きた時もすぐに確認をすることができるので、今では記録を付けない方が気持ち悪いとすら、思うようになっていた。
観察記録に観察対象の意思はない。
対象物をじっくり観察して、客観的な記録をつける。
だから、対象者ではなく、観察者の主観は否応無く入ってくる、はずだった。
俺は特に、そんなに作文が得意じゃなかったから、最初は小学生の作文か、と思うくらいひどい内容だった。
綺麗な花が咲いて嬉しかった。
台風が来て、対処が大変だった。
きっと文章のプロが見ると呆れるくらい、拙い文章。
読み返すのはとても恥ずかしいが、でもわかることもある。
その時、どんな気持ちで観察対象に向き合っていたか、だ。
自分の感情がどれだけ観察対象に影響が出るかは……本当のところはわからない。
でも、マイナスな気持ちで記録を書いていたときよりは、ポジティブな気持ちで書いていた時期の方が、良い林檎が実っていた気がする……ということを感じることはできた。
それに気づいてから、俺は林檎と向き合う時はどんなに辛くてもポジティブな気持ちに切り替えようという努力を始めた。
その結果だった。
凪波のための林檎を作ることに成功したのは。
だけど、凪波のこの記録には、凪波の感情があまり読み取れない。
もちろん、一路朔夜へのアドバイスはびっしりと書いてあったけれど、そこに凪波がどう思ったのかのリアルはわからない。
呼吸がおかしい。感情が伝わらないなど、凪波がいかに演技に厳しかったかだけは感じ取ることはできたが。
凪波は、この作品を一路朔夜が演じた時……感動したのだろうか?
嬉しかったのだろうか?
といった凪波の表情が記録からは欠けていた。
まるで、意図して凪波がそれを排除したのではないかと疑うほど。
記録は、半年以上前の人気作……俺もDVDを集めた作品のところまで書かれていた。
だけど、次のページをめくった時、俺はページを閉じたくなった。
ページいっぱいに細かく書かれていた死にたいという言葉と、それを打ち消すようにぐしゃぐしゃにボールペン全体を塗りつぶしたページが見開きで現れたから。



