Side朔夜

なんて、静かな夜だろう。
月は出ているが、少し曇っている。
東京の外に出ていく電車の割には空いていた。

今度主演が決まったアニメの原作を読もうかと思い、スマホを手にするが、今日は集中できそうにない。
電子書籍のアプリを開く代わりに、僕は写真フォルダを開く。
少し恥ずかしそうに微笑む凪波と、僕のツーショットの写真。
唯一、僕のスマホから消えなかった写真。
それ以外の写真は、彼女に関するものは全て消されていた。
きっと彼女が消したのだろう。
彼女以外、僕の私物に触らせることは許さなかったのだから。

それに気づいたのは半年前……僕と彼女が、いつものように……いや、いつも以上に激しく愛し合った後の朝だった。