Side 朝陽
それは、本当に突然だった。
「朝陽!朝陽!!」
俺が畑仕事から帰ってきた時、母が血相を変えて駆け寄ってきた。
「どうしたんだ?おかん。猪でも出たんか?」
「そ、それどこじゃねえ!」
「おかんがそんだけ狼狽えんの、獣が現れた時以来じゃねえの?」
「冗談言うてる場合か!」
「なんで俺が逆ギレされないといかんの」
「うるさい!だまって聞かんかい!げほげほっ」
一息で、かつ早口でまくし立てたからか、母は呼吸が乱れて咳き込むので
「おい」
父が湯呑みを持って居間から現れて、そのまま湯呑みを母に渡す。
湯呑みの上には溶けかけの氷が、お茶の上に浮いている。
母は一気にそのお茶を飲み干し、ふぅ……と大きなため息をついた。
「はあ、死ぬかと思ったわー」
「こんなんで死ぬかい」
「そんなこと言って、人間は何がきっかけで死んでしまうかわからんのよ?ねえ、お父さん」
だまって頷く父。
「おい、それより何かあったんか?」
俺はとにかく母が何故血相を変えたのか、理由を聞くことにした。
「ああ、そうそう。今な、みーちゃんから電話が来たんよ」
「みーちゃんって……凪波のお母さんのこと?」
「それ以外、誰がいんのよ!……凪波ちゃん……こっちで見つかったんだって……!」
「……はあ!?」
畑野凪波。
俺が生まれた時から、側にいるのが当たり前だと思っていた幼馴染。
いつか一緒に家族になるものだと、信じていた。
「ど、どこで見つかったって?」
「そ、それがようわからんけど、駅前の病院におるって……」
それを聞いた瞬間、俺は汗と土にまみれた服を着たまま、外に飛び出していた。
畑野凪波。
それは、10年前の高校の卒業式の日に、誰にも何も告げず、どこかへと消えた女。
駅で見かけたという目撃情報と、その1ヶ月後に唯一かかってきた電話で告げられた「2度と戻らない。私を探さないで。私を自由にして」という言葉が、今俺が持つ最後の記憶だった。
それは、本当に突然だった。
「朝陽!朝陽!!」
俺が畑仕事から帰ってきた時、母が血相を変えて駆け寄ってきた。
「どうしたんだ?おかん。猪でも出たんか?」
「そ、それどこじゃねえ!」
「おかんがそんだけ狼狽えんの、獣が現れた時以来じゃねえの?」
「冗談言うてる場合か!」
「なんで俺が逆ギレされないといかんの」
「うるさい!だまって聞かんかい!げほげほっ」
一息で、かつ早口でまくし立てたからか、母は呼吸が乱れて咳き込むので
「おい」
父が湯呑みを持って居間から現れて、そのまま湯呑みを母に渡す。
湯呑みの上には溶けかけの氷が、お茶の上に浮いている。
母は一気にそのお茶を飲み干し、ふぅ……と大きなため息をついた。
「はあ、死ぬかと思ったわー」
「こんなんで死ぬかい」
「そんなこと言って、人間は何がきっかけで死んでしまうかわからんのよ?ねえ、お父さん」
だまって頷く父。
「おい、それより何かあったんか?」
俺はとにかく母が何故血相を変えたのか、理由を聞くことにした。
「ああ、そうそう。今な、みーちゃんから電話が来たんよ」
「みーちゃんって……凪波のお母さんのこと?」
「それ以外、誰がいんのよ!……凪波ちゃん……こっちで見つかったんだって……!」
「……はあ!?」
畑野凪波。
俺が生まれた時から、側にいるのが当たり前だと思っていた幼馴染。
いつか一緒に家族になるものだと、信じていた。
「ど、どこで見つかったって?」
「そ、それがようわからんけど、駅前の病院におるって……」
それを聞いた瞬間、俺は汗と土にまみれた服を着たまま、外に飛び出していた。
畑野凪波。
それは、10年前の高校の卒業式の日に、誰にも何も告げず、どこかへと消えた女。
駅で見かけたという目撃情報と、その1ヶ月後に唯一かかってきた電話で告げられた「2度と戻らない。私を探さないで。私を自由にして」という言葉が、今俺が持つ最後の記憶だった。