memo凪波

私なんかの言葉を、疑いもせず聞き入れるあの人。
私の行動1つが、あの人の感情を支配する。
そんなあの人の姿を見ながら、私は悪い考えを持つようになった。
私自身が求める形で、私は他人から認められることがなかった。
だから、私が望む形で賞賛を浴びているのに、それを一切気にしないあの人を見ているのが辛かった。
今までの私の苦しさはなんだったのかと、あの人を僻んだ。
あの人から好きだと言われるたびに、私はリップサービスのつもりで同じ言葉をおうむ返ししながら、黒い考えに支配される。
そんな自分が、ますます嫌いになっていく。
彼が光の住人なら、私はきっと闇側の人間なのだろう。

だからだろうか。
それは、本当に急にだった。
あの人を通して自分の夢を叶えているという感覚に陥ったのは。

あの人が私のアドバイスを聞き入れて、その通りに演じた結果、役を得て、知名度をあげて、憧れの作品に出て、また知名度を上げる。
私という個人ではもう叶えられることはないだろう、私の知識とスキルを吸収したあの人が成し遂げてくれる。

その事実に気づいた時、私は笑った。
そして泣いた。
他人に依存しないと自分の夢が叶えられない、自分という存在の儚さを。
だけど同時に、それすらを希望だと考えてしまう、自分という人間の愚かさを。

まるで寄生虫ではないか。
気持ちが悪い。
だけど、1度知ってしまった喜びを手ばす勇気も、私には無かった。