Side朝陽

駅についてから、俺は凪波に電話をした。
でも、何度も電話をかけても、一向に電話に出てくれない。

一体どうしたんだ……凪波は……!?

俺は駅員に凪波の写真を見せて、見かけていないかを聞いた。
すると、一人の駅員が、凪波が改札の中に入っていくのを見たと言った。

なんで改札の中に入る必要があるんだ?
駅員もさすがに行き先までは見なかったらしい。

もし電車に乗ったとしたら?
そもそも、凪波は電車に乗ってどこに行く?

可能性を考えろ。
絶対にヒントがあるはずだ。





……最後の記憶と最初の記憶の場所……。
あのホームだ!!


俺は、そのままスマホで改札に入り、走った。
どうか、そこにいてくれと、願った。
そしたら、そこに凪波はいた。


でも、その時凪波は知らない男に電車に引き摺り込まれようとしていた。

「凪波!!」
急いで助けなければ……!

俺は、凪波の体を抱え、男の手から凪波を引き剥がす。
その男は、見た目がとても細い割に力が強かった。
「てめえ!凪波に何しやがる!!」
凪波を男と完全に引き剥がした後、俺は男を勢い余ってホームに突き飛ばした。
凪波の体がびくりと震えたのが分かった。

そんなに怖い思いをしたのか……?
一体、この男は凪波に何をしたんだ……!

「全く……」
男がすっと綺麗な姿勢で立ち上がりながら口を開く。
「何も突き飛ばさなくてもいいじゃない、ねえ、凪波?」
凪波は、震えている。
「……おいあんた。人の女房に何をした」
「それは、こっちのセリフなんだけど」
「何だと……?」

男の目が鋭くなり、
「人の女房?誰が?」

そして男が俺達に近づいてくる。
「そう言う君こそ、人のものを勝手に盗まないでくれるかな」

空気が凍った気がした。
人を凍らせるほどの冷たい声。
そんなものが本当にあるのか……?

「盗むって……何のことだよ」
俺がそう言うと、男が凪波の左手の指部分を強く掴む。
「痛い!」
「凪波!おいやめろ!痛がってるじゃないか!」
「ねえ凪波、この指輪は何なの?」
「はっ、離してください……」
「僕が送った指輪は置いていったのに、他の男の指輪はするの?ねえ」
「やめろって言ってるだろ!」
「君が彼女を離してくれるはら、僕も彼女の手を離してあげるよ……海原……朝陽さん?」
「なっ……」

なんでこの人……俺の名前を……!?

「痛い……離して……」
凪波の口から、かぼそい声が盛れる。
「凪波……!ごめんね!」
そういうとそいつは、ぱっと手を離す。

「ごめんね、君を泣かせるつもりじゃなかったんだ……」
男は凪波の頭を撫でようとした。
「馴れ馴れしくさわんじゃねえ!」

俺は男の手を払う。

「痛いなぁ……」
「てめえ、一体何者だ……!?」

俺の余裕を無くした問いかけに、男は、さもおかしそうに「くくく」と笑う。

「な、何がおかしいんだ!!」
「まさか、こんなところでアニメや漫画のようなセリフを聞くなんて思わなくてね……」
「なっ……!」
「もしかして、君、それなりにアニメを見ているのかな?」
「い、今そんなの関係ないだろ……!」
「まあいいや。名乗らなくてもわかるかなと思ってたけど……僕の見立て違いだったな」

その男はすっと呼吸をしたと思うと、今話題のアニメのセリフをすらすらと言い始めた。
その声と、演技……最近のテレビを見ていれば聞かない人間はほとんどいない。
それくらい、耳を支配する声。

まさか……。

「あんた……まさか……」
「……せっかくだし、ちゃんと、自己紹介させてもらうよ」


嘘だろ……そんなことあるのかよ……。

「僕は、一路朔夜(いちろ さくや)」

俺もよくテレビで見てる、超人気声優と言われる人間がなんで……。

「凪波のフィアンセだよ」

凪波の子供の父親だなんて……。


next memory...