memo凪波

急に呼ばれた。
あの漫画の現場に。
嬉しかった。
でも、怖かった。
あの人がいるのは分かっていたから。

どうしてだろう。
1度限りの夜を過ごした男達の連絡を無視したところで何とも思っていなかったのに。
今になって、あの人にだけは罪悪感を感じてしまう。

そんなことを考えたところで、今更なんだと言うのだ。
私は、いつも通りやるだけだ。
今まで通り。
だって、それが評価されたから、私はどんな形であれ呼ばれたのだから。
あの人達のように、花のある声も顔もないけれど、作品に溶け込む演技力だけは、私の方がずっとあるはずだ。
そうなれるように、あの人よりずっと、血が滲むような努力をしたのだから。
あの人はきっと、喉が枯れるほどのトレーニングなんか、縁がないだろう。
だからどうせ、あの時みたいに、舐めた演技しかできないはずだ。
そうに違いない。
そうであって欲しい。

あの人にないものを私が持っている。
それが、たった1つでいい。
それがあるだけで、あの人の前に立っていられる。
罪悪感なんか、忘れてしまえる。

がんばれ私。
チャンスを掴め。
そうすればいつか、あの人のことも気にならないくらい、仕事に恵まれるようになる。
素敵な現場に呼ばれるようになる。
私の演技が、もっと必要とされる。
そのために私はいろんなものを捨てたから。
がんばれ私。