memo凪波

昨日は散々だった。
いつもの形だけのオーディションに呼ばれて、大島愛梨に嫌味を言われる。
そんなのは慣れている。
むしろ狙いは、音響監督に私のことを売り込むためだから。
どんな役でも、真剣にこなすと思わせられれば、声をかけてもらえる。
名前がある役の枠を真面目に競うより、ずっとそれが私らしい、正しい生き方だと思えるようになってきた。
だから、私にとってオーディションは重要なのだ。
それなのに、どうして一路朔夜を連れていかなくてはいけなかったのだろう。
事務所の人に言われたからではあるけれど。
私は、事務所には逆らえないから。
おかげで、オーディションの時色々と言われてしまった。
一路朔夜を連れてきて欲しい。
一路朔夜ぼ演技を見たいから、と。
どうして。
私が演技をしにきたのに。
なんであんな、顔だけの人ばかりみんな見るの。
お願い、私を見て。
例え役に大島愛梨が選ばれたとしても、これまでは私のことも見てくれてた。
華はないけど演技だけはしっかりしてるって、大島愛梨と比較して褒めてくれた。
それなのに、今日はどうして。
みんな一路朔夜の事ばかり。
あの人はなんなの。
どうしてあの人は私の前に現れたの。
絶対2度と関わりたくないって思ったのに。
食事にも連れていかれるし、最寄駅にもついてくる。
私のことを知りたいと言ってくる。
怖い。
あの人が私に近づいてくるのが。
だけど、あの人と近づきたくないと思っていたのに。
あの人が始発までファミレスに行くと聞いて、自分も残ると言った自分も怖かった。
もう、なかったことにしよう。
関わらないようにしよう。
あんな軽そうな人には分からないような演技論なんか語るような女、きっとあの人も近づきたいとは思わないだろう。
明日も大事な仕事がある。
仕事のことだけに、集中しよう。