Side凪波

どれくらい時間が経ったのだろう。
月の位置が変わっていて、空気が冷たくなった。
人がほとんどいなくなっていた。
ホームから見える明かりがほとんど消えていた。

どうしよう。
立ち上がれない。
考えても、考えても、ここは私が知っている世界と切り離されている。
いや、私だけが、この世界から排除されているのではないだろうか。

指輪が目に入る……。
この指輪は、私をこの世界に留めてくれる、魔法の道具なのだろうか。
そうであって欲しい。


さあっと、風がふいた。
懐かしい、香りがする。
でも、その香りは知らない。

はっと、香りがする方を見る。


「凪波」
なんて、耳に残る声なのか。

「見つけたよ」
なんて、脳に響く声なのか。
そして、なんて美しい微笑みをする男性なのか……。

私の脳の箱には存在しない。知らないと言っている。
だけど、体がうずく。
何?この感覚。
この人を知っていると、教えてくれているの?

「あ、あの……初めまして……ですよね?」
私がそう言おうとするとその人が近づいてきて、そして……


「んんっ!?」

口を思いっきり塞がれた。
腕でしっかり固定されて、舌が口の中に入って、そして吸い尽くされる、そんな感覚がする。
苦しい……痛い……!
でも、この激しい口付けの受け方を、私は知っている。