Side凪波

ここで、私は見つかった……らしい。
ホームのソファに腰掛けながら、私は脳に閉じ込められた記憶を呼び起こそうと、必死で考えた。
ここにくれば、何かわかると思った。
10年前の18歳の時の最後の記憶もここだったから。

私は……一体何?
実鳥の話も、朝陽の話も、頑張って受け止めようとした。
そうか、すごいな、と思うこともたくさんあった。

実鳥は、私の空白の期間に子供まで産んでいた。
シングルマザーは大変だ……と嘆いてはいたが、その勢いは昔以上。しっかりと根を張った生き方だ……と思った。

朝陽の事業のこともそうだ。
朝陽は朝陽で、この地でできることを必死にやって、あんな風にすごい人になった。
その原動力が私だと言われても、正直信じられないけれど。

……私は、朝陽の想いに答える資格はあるのだろうか。
一体私は何をしていたの?どこで?
いや、本当はこの空白の期間なんて、私の思い込みではないだろうか。

……音楽が流れる。
綺麗な音質の音。
私の記憶にはないはずの最新機器。
動画もゲームもできて、電話代もWi-Fiというものがあればほとんどかからないというのも……私の常識にはない。

周囲を見渡してみると、私が知っていたはずの景色は、私が知らない世界に変わってしまっていた。
古ぼけた姿から、キラキラした姿になっている。
あの日、この古ぼけたホームを飛び出すことが何よりも楽しかった。
古ぼけたこの場所から旅立つことで、開放感を手に入れた。

そこでぷつりと切れた私の記憶。
今私が立っている世界には、確かにあった行動の動機が消滅している。

混乱?
そんな簡単な言葉でなんて言い表せない。
恐怖だ。

急に魂が、別の肉体に宿ったのではないだろうか。
もしくは、夢の中にいて、あと少ししたら目覚まし時計の音がなり、現実に戻されるのかもしれないし……実は私は死んでしまっていて、ここはあの世なのかもしれない。

私は、私という存在に自信はない。
私は、畑野凪波。28歳だと、周りは言う。でも私は18歳だ……。
いや、そもそも18歳の畑野凪波という人間は私なのか?
私は実は全く違う別人で、そう思い込まされているだけ?

わからない。
今、私が私としてこの場所に立っていることは、本当に正しいこと?