Side朝陽

事実は小説よりも奇なりと、一体誰が最初に言ったのか。
今、俺の目の前にはその通りのことが起きている。

藤岡の首を絞めていた一路。
その一路を、目に見えないような速さでボディブローをくらわして意識を失わせた山田さんが、そのまま、一路をどこから持ってきていたのか……車椅子に乗せて連れ去っていったのは……状況が違ったらコントとしてさぞ多くの観客の笑いを掻っ攫っただろう。

だけど、俺は……笑えなかった。
笑えるはずは、ない。
頭が追いつかないのだ。
1つわかったら、また1つよくわかんないことが起きる。

一路と……一時的とはいえ、凪波のことで協力しあえるかもと思った矢先の、藤岡からのこれだ。
今、藤岡は蹲りながら、子供のように泣いている。
葉が泣いている声よりもその声は大きかった。
こんな藤岡、俺は1度も見たことはない。

「藤岡、本当にどうしたんだ……」

どうすれば泣き止むのかわからない。
今自分が、どう振る舞えばいいのかわからない。

俺は、何もわからない。
その事実が、俺を攻撃する。

「海原……ごめん……でも……」

だけど、俺にだってわかることはある。
藤岡という人間は、簡単に親友を諦めるなんて決して言わない。
それだけは、はっきりと自信を持って言える。

ふと、足元に落ちている手帳は目に入る。
俺はそれを拾うと、藤岡が手を伸ばしてきた。

「だめだよ……海原……」
「え?」
「海原は、見たらだめ……」
「……何で?」

俺が尋ねると、藤岡は予想外のことを言ってきた。

「きっと、凪波のこと……嫌いになっちゃうかもしれない」

と。