Side朔夜

「一路!お前なんてことすんだよ!!」
「君こそ……」
「あ?」
「海原……君は本当に、凪波を愛しているのか?」
「何だと?」

僕が問いかけると、海原は目をかっと見開いて、僕を見てきた。
その目には、怒りとも憎しみとも悲しみとも取れない、複雑な感情が浮かび上がっていた。

「この女は、凪波を殺せと言ったんだ!そんな女を庇うなんて……君は凪波を愛していないんだ」
「飛躍しすぎだ!それに藤岡は殺せだなんて言ってない!」
「言っただろう!!諦めると!それは凪波に死ねと言っていることと同じだろ!違うか!?」
「そうよ!」

実鳥という女は、叫んだ。

「そうよ……!!凪波はもう死んじゃった方がいいのよ!」
「おい、藤岡!馬鹿な事言うなよ!!」
「だって……全部あなたのせいなんだから!」

そう言うと、実鳥という女は僕を睨みつけてきた。
まるで、僕が親の仇であるかのように。

「あなたが、凪波を追い詰めた。凪波が、私に、教えてくれたの」

実鳥はそう言うと、僕に何かを叩きつけてきた。

「これは……」

それは、表紙がボロボロになっている、手のひらサイズの冊子。
1度だけ見たことがあった。
僕と凪波とで暮らした部屋の中で、唯一絶対に凪波が僕に触らせなかったものだった。

「どうして、これがこんなところに……」

僕がその冊子を手に取ろうとした時だった。

「失礼」

山田という男の声が聞こえたかと思うと、急に目の前が真っ暗になった。
凪波を見つけた時と同じ……急に意識が消えるような感覚がした。

「申し訳ありません、お時間なのでこのまま連れて行きます」

その声を最後に、僕の意識はぷっつり途絶えた。