Side朔夜

マネージャーに確認……だって?
いつ?どうやって?
確かに、僕がどこに所属されているかは、調べさえすれば誰にでもわかる。
もちろん連絡先も、Webサイトには掲載されている。

ただ……あくまで問い合わせに応えるとしても、依頼に対してのスケジュールの可否くらいで、現時点で動いている案件の情報など、漏らすはずはない。

では何故だ。
この男は、どういうルートで知ったんだ?

山田という男に似た男を、1度だけ演じたことがあった。
常に感情は面に出さず。
淡々と、与えられた任務をこなす、ロボットのような男。

僕はこの役を演じる時に、意識させられたことがあった。
音響監督から。

それは、声色には感情を一切乗せるな。
でも、その声の裏には、深い真実が隠れていることを意識しろ。

声色を変えることにも、抑揚をつけることも許されないというのに
どうやって深い真実とやらを表現すれば良いんだ、と頭を抱えた。
そうは言っても、結局は音響監督の指示通りに声を出すだけで事足りたので

「あれだけ悩ませておいて、一体何の意味があったんだ」

と、スタジオから帰るまでの間、グダグダと考えたのは記憶に新しい。


……まさか、この時の経験が、役に立つなんて思わなかった。
この男の、平坦な声の裏には、深い何かがある。


「分かりました……行きましょう……」

もし、その深いものが、凪波と繋がっているのだとしたら。
僕はこの、山田という男が被っている仮面を剥がしてやる。


「では、車へ」

山田という男が、踵を返した時だった。
予想外の来訪者が、部屋に飛び込んできたのだ。