Side朔夜

目の前にいるこの男は、僕から凪波を奪おうとした男。
だけど何故だろうか。
不思議と、ついからかいたくなってしまう。
普通、フォークで鍵穴が開けられるなんて、思わないだろう。
それを本気で、1度試そうとするのだ。

もし、この男と普通に出会えていたら……どうだったんだろう。
例えば、学校のクラスメイトとして会っていたとしたら。
凪波も同じクラスにいて、彼女を取り合うのだろうか。
どちらが凪波の気を引くことができるのか、競ったりするのだろうか……。

そういうのも……きっと……悪くない……。

だけど、僕たちはそういう関係にはなれない。
なれるわけがない。
ただ、今だけ……。
そう……今だけだ……。

「君……凪波を抱いてないね」
「はああああ！？」
「その様子なら……経験も……無さそうだね」
「ふざけんな！今それ関係ねえだろ！！！」
「図星か」
「だから、お前にカンケーねえだろが！！」

男同士で、友達同士なら……こんな会話も日常なんだろう。
かつて演じた役を思い出して、海原に吹っかけてみたら、思った通りに海原が反応したので、面白くなってしまった。

この男は、根がとても素直。
だから、僕よりもずっと、この世界の適合しやすいのかもしれない。
凪波に造られて、ようやくまともに世界に立っていられる僕とは違う……。

「もし、君が凪波を抱いていたのなら、僕は君が持ってるそのフォークで君を串刺しにしたかもしれないから」

これは、僕の心の奥底に眠る本音。
海原は、僕に怯えていたけど、僕の方がずっと怯えている。
この男は、男として未完成。
伸び代があるということ。
もし、この男が、成長してしまったら。
もし、凪波が目覚めて、この男の本当の魅力に気づいてしまったら。
今度こそ、はっきりと、僕を拒絶したら。


……僕は、生きていけるだろうか。