Side朔夜

あの日、僕は必死に願った。
凪波に振り向いて欲しいと。
僕を求めて欲しいと。
好きだと言って欲しいと。
もしも、その願いが叶うならば、この先、願いなんか叶わなくても良いと、本気で思った。
この願いを叶えてしまえば、後がない。
そうまでしてでも、今ここで叶えたいと魂が叫ぶ。
それこそが、後生の願いなんだと……僕は凪波によって理解させられた。

それ程までに強い言葉を、今目の前にいる……僕から凪波を奪おうとした男が使っている。
僕に対して。

海原の願いを叶えるのは、僕にとっては強いストレスでしかない。
でも、海原にとっては、僕が宮川に会うことが重要だと本気で思っている。

悪い考えが、僕の頭を掠めた。
僕が、宮川に会うという海原の後生の願いを叶えてやる代わりに

「凪波から手を引け」

と、海原に言ってみようか、と思った。

「僕と凪波の邪魔を、これ以上するな」

とも、言ってみようか……。
少なくとも、彼の願いを叶えるならば、これでも対価としては足りないくらいだ。
もし、この対価をぶつけて、海原が凪波の前から消えてくれるのだとしたら……僕は宮川に会うために、なけなしの勇気を振り絞っても構わない。

さあ。どうする。
これを言ったら、海原は……どんな顔をする?
それでも、僕に後生の願いだと、頭を下げる?