Side朔夜

鍵を壊しそうな程、乱暴に開けてから、部屋に駆け込んだ。

「ど、どうしたの……!?」

リビングに入ってすぐ、ソファに腰掛けていた凪波を見つけて、僕は凪波を掬い上げる形で抱きしめ、そのままソファへと共に沈んだ。
ノートパソコンが、ローテーブルの上に置きっぱなしになっている。
何か調べ物でもしていたのだろうが、そんなこと、僕にはどうでもよかった。

「朔夜!?え!?何!?」

凪波が足をジタバタさせて、僕から離れようとするので

「暴れないで!!」

と、凪波の両手首を掴んで、ソファに固定させた。

「どうして……?まだ仕事、終わりじゃないよね……?」

僕たちはカップルでも使えるという、スケジュールアプリを使って、お互いのスケジュールを管理していた。だから、凪波は僕の今日の予定を把握していた。
勿論、僕も。

「ごめん」
「え?」
「……すぐ……出るから……ちゃんと……」
「……朔夜?」

あとせめて5分だけでもあれば、凪波を抱くことはできたかもしれない。
だけど、今はその時間すらない。
凪波の肩に顔を埋めて、思い切り深呼吸をする。
凪波は、僕と同じシャンプーを使っているけど……僕よりずっと甘い香りがする。
この香りを体内に染み込ませて、僕は苦い記憶を無理やり上書きさせる。

ああ。好きだ。
この香りが。
この肌が。

僕は凪波の首筋に、そのまま吸い付くようにキスをしてから、貪るような、奪うようなキスを凪波の唇にした。

「んふっ……」

僕は、凪波の唇の中に無理矢理自分の舌を入れ、凪波の口内を味わう。
ミントの味と香りがした。

まずい……。
止められない……。
止まらないと。
もう出ないと。

理性が叫ぶが、僕の雄としての本能が、凪波の服の中に手を入れる。
肌を丁寧に愛したいと、指先が凪波の胸のところまで入っていく。
そうして、凪波の下着の中に指を入れそうになった時


プップー!!!!!
外から、空間を切り裂くような大きなクラクションの音がした。

「え!?何!?」

凪波が飛び上がるように体を起こし、その結果僕と凪波の額が見事にぶつかった。
火花が散ったかと思うほど……痛かった。
でも、凪波が与えてくる肉体的な痛みですら、僕にとってはずっと幸せだった。