Side朔夜

「痛い……!」

ああ……こういう声もだ……。
男の気を引くように、わざと誇張した言い方をする。

「ひどい……!どうしてそんなことをするの……!?」

悲劇のヒロイン気取りなのだろうか。
セリフの言い回しにわざとらしさを感じる。
小学校の学芸会の方が、ずっと見られるくらい、陳腐な芝居。
他の男は騙されるかもしれないが、僕には無意味だ。

「言いたいことはそれだけ?どうせ大して痛くもないんでしょう?」

うまい具合に、手を使い、体の衝撃を軽くしている。
僕には分かる。
その手を使うような女は、うんざりする程関わってきた。

「悪いけど、もう時間が無いんだ」

僕は立ち去ろうとする。
しかし

「一路様!!!」

僕の膝を、宮川はがしっと掴んできた。

「一路様!愛しています!!私をあなたの奴隷にしてください!!」
「なっ……!!」

恍惚とした目をして、僕を見つめる雌の顔をした宮川。
気持ち悪い。
見るな。
そんな目で、僕を見るな!!!

「離せ雌豚!!!」

僕が宮川に放ったこの言葉が、宮川の空気を一変させた。

「…………は?」

その時の宮川の姿は、今でも忘れない。
まるで、地の底から這い出た大蛇のように僕に絡みつき、般若のような顔で僕を睨みつけていた、そんな姿。