Side朔夜

宮川のりかが告白したのはいつだったか……。

興味が無さすぎて、全く覚えていない。
と言うのも、確か……ドラマの撮影とアフレコに追われる日々で、凪波を抱くどころか、きちんと会話をすることすらできず、イライラしていた多忙な時期の記憶がすっぽり抜けているので、言われてみるとあの時期かも……?という検討はつくから。

ただ、時期は覚えてなくとも、あの女に告白されたという事実だけは、くっきりと覚えている。

確か、アフレコの現場からドラマの撮影場所に向かおうと、スタジオから出ようとしていた……ような気がする。
場所が、スタジオの受付前だったから。

「一路様!!」

宮川という女は、僕のことを様付けをして呼ぶ。
その呼び方は、寒気がして仕方がない。
捨てたい記憶と、瞬時に繋がってしまうから。
だからだろう。

「は?」

自分から、酷く冷たい声が出ていた。
普通の人間であれば、そこでビビって逃げてくれるのに、宮川は

「やだ〜一路様ったら〜超格好いい〜」

などと、すり寄ってくる。
宮川の声は、大島愛梨のような人目を惹きつける華がある声とも、凪波のようにどんな場面でも溶け込める声とも違う。
どろっと男に纏わりつく……歌舞伎町に住み着く女たちの臭いのような声。

……気持ち悪い。ただ不快。
脳内で、凪波の声をどうにか呼び起こして、吐き気が出てこないようするので必死だった。
そして、普段はいらんところまでついてくるマネージャーなのに、こういう時に限って出てこない。
……ほんと、使えない。
凪波だったら、こんなヘマしないだろう。
それがより一層、僕のイラつきを増長させていた。

「君に構っている時間はないから」

僕は宮川を振り切り、外に出ようとした。
ところが

「待って〜一路様〜」

宮川の耳障りな声が急に近くなった……と思った時、背後から急に抱きつかれた。
女、ということを強調してくる胸を、僕の背中に押し付けてくることに、背筋が凍る思いをした。

「触るな!!!」

僕は、反射的に宮川を地面に突き飛ばしていた。