Side悠木

いつものように、昔の流行歌を流す。
今日という日のために用意した特別な薔薇の花を、儚いほど美しい一輪挿しに捧げる。
まっさらな上質紙と、万年筆も特注で用意をした。
そうして私は、何年、何十年と待ち続けた。

「もうすぐだ……」

私は、この部屋に相応しいようにと特注した、ロッキングチェアに腰掛けながら、いつものように彼女を愛する。
この部屋は、私と彼女だけの特別な空間だ。
神にその才能を愛された彼女。
そして神は、彼女を早々に自分の元に連れて行こうとした。
卑劣な方法を使って。

到底、許すことなどできるはずはない。
私から彼女を奪うことなど。

長い間、歯を食いしばって耐えてきた。
全ては、この日のために……。

「君の声が聞きたい」

ただそれだけのために、私は全てを捧げた。
能力も、財産も、倫理も……命も。

コツコツと、規則正しい足音が1人分と、ばらつきがある足音が2人分、聞こえてきた。

「来たか……」

私と彼女の夢を叶えるために、用意したピースの1つが今、この時を持って完成することだろう。

「くくく……」

残りはあと2つ。
それさえ完成すればようやく私と彼女は、一つになれるのだから。