Side実鳥

「はい……」
歩美さんが、エプロンのポケットからスマホを取り出し、その場で話し始めた。

夜中の3時過ぎだというのに、相手は一体誰……?

「はい……えっ!?本当にですか!?」

歩美さんの反応が、とても嬉しそうだ。
興奮しているのか声がどんどん大きくなっていく。
葉が起きないようにと、私が歩美さんから葉を少し離すために抱き上げた丁度その時に、歩美さんが電話を切った。
それからすぐ

「も、申し訳ございません……大声を出してしまって……」

と、本当に申し訳なさそうに、小声で言った。
それから歩美さんは、私が抱いている葉を覗き込みながら

「起きてしまいましたか……?」

と尋ねた。

「いえ……大丈夫そうです……それより、どうかしたんですか?」

歩美さんは、本当に気遣いができる人なんだと改めて分かる。
だからこそ、歩美さんが気遣いを忘れてしまうほど、喜ばしいことが起きたのだろう。
それを私に責める権利はない。
勿論、結果として葉が目を覚まさず、ぐっすりと眠っているからこそ言えることではあるのだが。

「実は娘なんですけど……もしかしたら今日は会えるかもしれないんです」
「今日は、会えるかも……ですか?」

面会謝絶状態にでもなっていたのだろうか……?

「はい。娘の状態が安定しないと、なかなか会わせてもらえなかったんですけど……やっと今から会わせて貰えるみたいなんです……!」
「い、今から!?病院ですか?」
「いえ、ここです」
「こ、ここって……」

この屋敷のことを、言っているのだろう。
悠木先生は娘さんと歩美さんを同じ空間にいさせられるようにした……と歩美さんが言っていたことを、思いだした。
その時、コツコツと誰かが近づいてくる音が聞こえた。
時間が時間なだけに、心臓が飛び上がるかと思う程、驚いた。
そしてこう言う時に限って。

「うわあああああ!!」

葉が急に泣き出してしまった。

「葉?おっきした?ジュース飲む?」

私は、葉用に準備されたジュースを葉に見せるが、葉は一切そちらを見てくれない。
まるでスイッチが入ったかのように、キンキンした金切り声をあげ続けている。
こうなった葉を宥めるのは、正直とても大変。

「ほら、葉。美味しいクッキーもあるよ」

いくら見せても、葉の声はちっとも止まらない。
どうして……。
どうすれば良い……。
ふと、背後に誰かの存在を感じた。
振り返ると、満面の笑みを浮かべた山田さんが、葉が好きそうな飛行機のおもちゃを持っていた。

「お困りですか?」

葉は山田さんが持っている飛行機を見た瞬間、ぴたりと泣き止んだ。