Side実鳥

「娘と清様は、学生時代のクラスメイトという運命の導かれたかのように出会ってくれました。それも、娘の血を吐くような努力によって……」
「な、なるほど……?」

そう言えば、悠木先生が通っていた学校は、日本有数の金持ち学校だと聞く。
そこのクラスメイトになれる方法は、自分が金持ちであるか、そしてもう一つは……。

「娘は、私のことを気にして、少しでも学費が抑えられるようにと、私立の特待制度がある学校へと進学してくれたのです」
「え……!?」

悠木先生が通ったと言われている場所は、特待で入るとしたら、世界屈指の頭脳が必要と言われる。
そんなところの特待性に選ばれた歩美さんの娘さんは、とてつもない優秀さを持っていることになる。

「そ、それはまた……すごい娘さんをお持ちで……」
「やっぱり……藤岡様も……そう思われるんですね」
「……え?」
「お恥ずかしながら、そういったことは……後で知ったんです」

歩美さんは、そこまで言うと、目頭をエプロンのポケットに入れていたであろうハンカチで抑えた。
そのハンカチは、私が子供の頃にはすでに人気だった、可愛いキャラクターの柄で、これもどちらかといえば10代の女の子が使うようなもの。

「あの時期、娘と2人で暮らしていくために仕事に追われてしまい……娘ときちんと向き合う時間すら、取ることはできませんでした……」

わかる。
1人暮らしでさえ……家賃光熱費、年金保険を払うために働き、家事もこなすだけでもいっぱいいっぱいだった。

プラス、子供にお腹いっぱい、栄養たっぷりのご飯を食べさせるための食費や子供用の服や本を買うためには、一人暮らし分だけでは足りないと思うことがいっぱいあった。
自分のことは、子供のためと思って我慢できる。
でも、子供には、生活のために我慢を強いるということは申し訳なくてしたくない。
せざるを得ないこともあったけれど、その時にいつも思ってしまう。

私なんかのところに生まれなければ、この子は幸せになれたのだろうか、と。
私なんかが子供を産む資格はなかったのではないだろうか、と。

「分かります……」

つい、言ってしまった。
本当なら、この言葉はNGになることが多い。
自分と同じ苦しみなんか、他人に分かるはずはない。
苦しい思いをしたことがある親であれば、そう思う……はずだ。

「そうなんですね……」

これが、正解だったはず。
でも、私には他人ごとのような回答はできなかった。

「歩美さん……分かります……」

その時、私は自分の頬を伝う涙に気づいた。
歩美さんに同調しただけでは、ない涙。