Side凪波

「ここは……」
連れてこられたのは、体育館。
「どうしてここに……?」
「俺とお前が、10年前に最後に別れたのはここだ」

私の記憶にもある。
卒業式の後、ここで朝陽に呼び止められた。
でも、私は別のことで頭がいっぱいだったし、一刻も早く「この場所」から立ち去りたかったから「また今度!」と、嘘を言って、その呼び止めを無視した。
余裕がなかったとは言え、悪いことをしたのだなと……朝陽の今の表情を見てようやくわかった。

「だから……凪波。あの時ちゃんと言いたかったことを、ここで言わせてほしい」

そう言うと、朝陽は、ポケットから小さな箱を出した。
リボンがついている。

「凪波」
今まで見たこともない表情の朝陽を見て、私の顔がどんどん赤くなっていく。
そらしたい。できることなら。
その目は、私の中をすべて見通すようで、怖い。

朝陽は私の手を握り、開かせ、箱を載せる。

「俺は、お前がずっと好きだった……いや……今も好きだ」

もしも。

「一生お前を、俺に守らせてほしい」

あの日にこの告白を聞いていたら、私は何か変わったのだろうか。
そんなことを漠然と考えながら、朝陽が自分を抱きしめるのを受け止めた。