Side実鳥

「神のような……?」

神、という言葉は特に日本では頻繁に使われている傾向がある。
例えば、良い行いをした人間に対して。
想像以上の見た目を持つ人間に対して。
ものすごいクリエイティブなものを作った人間に対して、などなど。
一神教の宗教を崇拝する人間が聞いた日には、怒るか苦笑するかといった、神のオンパレード状態だが、これも日本独自の文化が成せる技なのだろう。

だから私もついうっかり

「うわ〜ありがとう〜まじ神〜」

とか

「ほんとうちの子、超可愛い、神様ありがとう!!」

などなど、無意識に使うことも多い。
だから言ってしまうと、すごくライトに浸かってしまっているので、私が発する神という言葉は本当に軽い。綿菓子のように。

だけど、歩美さんが発する神という言葉はどうだろう。
目を輝かせ、その存在のことを噛み締めながら語る。
崇拝者、というのはこういう人のことを言うのだろうというのを体現している気がした。

「悠木先生は、一体何をしたんですか……?


悠木先生という存在が、どれだけ神の偉業を成し遂げたのかは、私も十分に目の当たりにした。
雑誌のことだけではない。
凪波のことも、そうだ。

記憶を人工的に消す。
一体どこのSFの世界なんだろうと、本気で思ってしまった。
でも私は見ている。
記憶が消された凪波の姿を。

「あなたの娘さんも、記憶を消したのですか?」

私が尋ねると、歩美さんは首を思いっきり振った。

「まさか!娘の場合はそんな必要がございません」
「……そうですか……」

私が知っている悠木先生の凄さは、記憶の操作に、難しい脳の難手術の成功という2点。
致死率100%と呼ばれる脳疾患をも、回復に導く手腕。

つまり、記憶の方が違うということは……もう1つの方なのだろう。

「娘さんは、今はお元気なんですか?」

私のその言葉に、歩美さんはハッとした表情をした。
私の言葉の意図を、読み取ったのだろう。

「そうですね、娘は……存在しています。清様のおかげで」

存在。
いるでもなく、存在。
何故、歩美さんがこの言葉を使ったのかを私は後に知り、後悔することになる。