Side実鳥
「あなたは……?」
私は尋ねた。
老婦人はにっこりと微笑みながら、可愛らしく会釈をした
身につけているエプロンが、年齢の割りに子供っぽいのが印象的だった。
「清様の助手です」
「助手……?」
「はい。患者様のお世話を担当させていただいております」
患者ということは……。
「それじゃあ、凪波のことも……?」
私が尋ねると、助手だという老婦人は小さく頷き
「はい、お手伝いさせていただいております」
と答えた。
「そ、そうですか……」
私は、そこまで話してから、言葉に詰まった。
どうしよう。
何か……話した方が良いのだろうか?
しかし、一体何を話せばいいのか……。
「藤岡様」
「は、はい!」
急に私の名前を呼ばれてしまったので、驚いてしまった。
もし今手に何かを持っていたら、確実に落としてしまったかもしれない。
……この老婦人は、一体いつ……私の名前を知ったのだろう?
「紅茶、何がお好きですか?」
「え……!?」
「ダージリンにアッサム……それからハーブティーも用意はございます」
「ふ、普通ので……」
「ストレートですか?ミルクは使いますか?」
「ふ、普通でいいです」
「……かしこまりました」
老婦人はさっと、ダイニングに戻っていく。
見た目からは考えられない程の軽やかさだった。
悠木先生の助手。
それはつまり、悠木先生が凪波にしたこと……凪波の記憶消去にも関わったということだろうか。
あんな状態になる前の凪波と……話したということだろうか……?
何かを……話すべきなのだろう。
でも、何を話すべきなのだろう?
何から、話をすればいいのだろう?
私は、葉を撫でながら、テーブルの上に置かれたクッキーを手に取った。
クッキーの材料で作られた、真っ白い犬。
店で売られていたら、きっとすぐに、女の子たちが寄ってくるだろう代物。
一口、噛んでみた。
丁寧に作られた、あったかい手作りの味がした。
私も葉のために手作りクッキーに挑戦したことはあったが、材料の分量を間違えたのか、粉っぽく、パサパサしたクッキーもどきができてしまった。
もちろん、クッキーもどき達は葉にあっさり振られた。
それに比べて、今私が食べたこれは、食べればサクッと軽やかな音がするのに、どこかしっとりしていて、バターの甘い香りが鼻に届く。
まさに、憧れていた手作りの味。
母親の味だ……。
リビングに置かれている時計を見ると、3時半を少し過ぎていた。
こんな時間に糖質と油分しかないクッキーなんかを食べるなんて、確実に脂肪になるのが分かっている。
それなのに、あともう少し食べたいと、手を伸ばさせる力が、このお菓子にはあった。
「どうです?」
「きゃっ!!」
いきなり真横から声をかけられ、また私はびっくりした。
心臓が、止まるかと思った……。
老婦人は、私と目が合うと
「気に入っていただけましたか?」
とクッキーを指さした。
「あ、はい……美味しいです……どこのお店のですか?」
「そう言っていただけたなら良かった」
「え?」
「これは……私が作りましたので、お口に合ったのなら何よりです」
老婦人はそう言うと、私の前にティーカップを置く。
紅茶のいい香りが、届く。
「あの……助手……さん……?」
「はい」
うん。
老婦人は気にしていないようだが、この呼び方はおかしい。
「さすがの助手さんとお呼びするのはちょっと抵抗があるので……お名前、教えていただけますか?」
「私は別に、構いませんが」
「私が構います」
「……そうですか?」
「はい」
私が強く強く頷くと、老婦人は一呼吸置いてから
「矢部歩美と申します」
と名乗ってくれた。
「あなたは……?」
私は尋ねた。
老婦人はにっこりと微笑みながら、可愛らしく会釈をした
身につけているエプロンが、年齢の割りに子供っぽいのが印象的だった。
「清様の助手です」
「助手……?」
「はい。患者様のお世話を担当させていただいております」
患者ということは……。
「それじゃあ、凪波のことも……?」
私が尋ねると、助手だという老婦人は小さく頷き
「はい、お手伝いさせていただいております」
と答えた。
「そ、そうですか……」
私は、そこまで話してから、言葉に詰まった。
どうしよう。
何か……話した方が良いのだろうか?
しかし、一体何を話せばいいのか……。
「藤岡様」
「は、はい!」
急に私の名前を呼ばれてしまったので、驚いてしまった。
もし今手に何かを持っていたら、確実に落としてしまったかもしれない。
……この老婦人は、一体いつ……私の名前を知ったのだろう?
「紅茶、何がお好きですか?」
「え……!?」
「ダージリンにアッサム……それからハーブティーも用意はございます」
「ふ、普通ので……」
「ストレートですか?ミルクは使いますか?」
「ふ、普通でいいです」
「……かしこまりました」
老婦人はさっと、ダイニングに戻っていく。
見た目からは考えられない程の軽やかさだった。
悠木先生の助手。
それはつまり、悠木先生が凪波にしたこと……凪波の記憶消去にも関わったということだろうか。
あんな状態になる前の凪波と……話したということだろうか……?
何かを……話すべきなのだろう。
でも、何を話すべきなのだろう?
何から、話をすればいいのだろう?
私は、葉を撫でながら、テーブルの上に置かれたクッキーを手に取った。
クッキーの材料で作られた、真っ白い犬。
店で売られていたら、きっとすぐに、女の子たちが寄ってくるだろう代物。
一口、噛んでみた。
丁寧に作られた、あったかい手作りの味がした。
私も葉のために手作りクッキーに挑戦したことはあったが、材料の分量を間違えたのか、粉っぽく、パサパサしたクッキーもどきができてしまった。
もちろん、クッキーもどき達は葉にあっさり振られた。
それに比べて、今私が食べたこれは、食べればサクッと軽やかな音がするのに、どこかしっとりしていて、バターの甘い香りが鼻に届く。
まさに、憧れていた手作りの味。
母親の味だ……。
リビングに置かれている時計を見ると、3時半を少し過ぎていた。
こんな時間に糖質と油分しかないクッキーなんかを食べるなんて、確実に脂肪になるのが分かっている。
それなのに、あともう少し食べたいと、手を伸ばさせる力が、このお菓子にはあった。
「どうです?」
「きゃっ!!」
いきなり真横から声をかけられ、また私はびっくりした。
心臓が、止まるかと思った……。
老婦人は、私と目が合うと
「気に入っていただけましたか?」
とクッキーを指さした。
「あ、はい……美味しいです……どこのお店のですか?」
「そう言っていただけたなら良かった」
「え?」
「これは……私が作りましたので、お口に合ったのなら何よりです」
老婦人はそう言うと、私の前にティーカップを置く。
紅茶のいい香りが、届く。
「あの……助手……さん……?」
「はい」
うん。
老婦人は気にしていないようだが、この呼び方はおかしい。
「さすがの助手さんとお呼びするのはちょっと抵抗があるので……お名前、教えていただけますか?」
「私は別に、構いませんが」
「私が構います」
「……そうですか?」
「はい」
私が強く強く頷くと、老婦人は一呼吸置いてから
「矢部歩美と申します」
と名乗ってくれた。