Side朝陽

凪波とこいつの話を、実家でただ聞かされてる時は、苛立ちしかなかった。
好きな女と他の男の恋愛事情を好き好んで聞けるほど、俺は人間できちゃいない。
だけど、今こいつから出てきた凪波の過去には……凪波がどうしてこんなことになったのか、のヒントがある気がした。
だから、こいつから出てくる俺の知らない凪波の話を、じっと耐えた。
耐えて耐えて、1つ見つけた気がする。

「凪波が、お前のことを考えてたのは……よく分かった」

俺の声は、震えている。

「ネットでお前ら中傷をしていた人間は……捕まったのか?」

俺の問いかけに、一路は首を横に振った。

「そうか」

俺は、ドラマや漫画で人気の探偵キャラクターのように、推理オタクでも、IQが高い訳ではない。
だから、あくまで客観的に話を聞いて気になった……というレベルの話しかできない。
でも、ヒントが皆無だったさっきよりは、ずっと凪波の過去の形が見えた気がした。

「一路、宮川ってどんなやつだ」
「……は?」

俺の質問が、一路にとって意外だったらしい。
本気で意味がわからない、という表情を浮かべられてしまった。
俺からすると、逆にこいつの方が意味分からないが。

「お前の話から考えると、明らかに宮川って女……何か怪しくねえか?」
「宮川が?」
「お前の話が本当に正しいのだとしたら」
「疑ってるのか」
「疑ってねえけど、前置きくらいさせろ!……で、だ。宮川って奴は……凪波に対して敵対心を抱いてたってことだろ?そんで、凪波とお前は、その出来事からしばらく会ってない。そこまでは合ってるか」
「ああ……」
「その後の凪波に、今お前は違和感を感じてる、ということだろ」
「……自信はないが……」
「自信があろうがなかろうが……お前の記憶だけが今は頼りだ、一路」

悔しさで、はらわたが煮え繰り返りそうだとしても。

「確信があるわけじゃない、でも俺にはその1週間に何かがあったんじゃないかと思う」
「何かって……何なんだ」
「俺が分かるかよ、そんなの!」

少なくとも衣食住を共にしていたお前がわからないのに。
10年、音信不通にされてた俺にわかりっこないだろう。

「とにかく、まずはその宮川って女だ。そいつが何か知っているかもしれない」

ようやく掴んだ、凪波を知る手がかりだ。
何としても……そこから探り出してやる。