Side朔夜

写っていたのは、僕と凪波が住んでいるマンションの入り口。
ほとんどは、僕の後ろ姿ばかり。
服装は違うから、それぞれ別日に取られたのだろう。
その中の1枚は、自分達に割り当てられた郵便ポストを確認している。

「で、この女……誰なの」

社長が示したのは、たった2枚。
でも、取り上げるのには、十分だったのだろう。
俺に、女がいるという確実な証拠として。

僕と凪波の家の部屋番号を押している、後ろ姿の女性。
僕が覗いていた郵便ポストを覗き、僕の部屋番号と同じ番号を押している。

僕は、凪波を見そうになるのを堪えるので必死だった。
間違いなく、この写真に写っているのは、凪波本人そのもの。
だけど、髪型も服装も、普段の凪波とは全く違う姿。

そうか……。
僕はこの時、ずっと疑問に思っていた、凪波のある行動にようやく合点がいった。

1つ目は凪波は、同じ方向に帰るにも関わらず、いつも別々に帰るように僕に指示をしていたこと。
帰り道も、帰る時間も、そして乗る電車の車両をも、僕と凪波は一切被らないようにと、凪波は指示を出していた。
僕は、その理由を一切聞かされないまま

「言うこと聞かないなら、家を出ていく」

という脅しをかけられて、渋々従わされていた。
1度、凪波にその不満をぶつけた事もあったが、その度に

「あなたのため」

としか、答えてくれなかった。

2つ目は、凪波は自宅に帰ると、リビングに寄らずすぐに浴室に入ってしまった。
リビングに入ってくる時はいつも、シャワーを浴びてプライベートな姿になってからだった。
これについては、てっきり凪波の習慣なのだろう……くらいにしか思っていなかった。

だけど、この2つと写真が繋がった。

……どうして、気づかなかったのだろう。
僕のこれまでの人生を考えたら……その可能性があることくらい、容易に想像がついたはずではないか。
少なくとも、凪波と会う前の僕は、心の片隅だけでも警戒心は持ち続けていた。


好きでもない女に、付き纏われる僕のこれまでの人生は、決して過去の事ではない。
これからだって、十分可能性があった。


それが今回……起きてしまった。