Side朔夜

僕を責めるこの女こそ、僕をあの地獄から救い出してくれた当時のマネージャー。
実は事務所の社長でもあったということは……後で知った。

「畑野」
「はい……」

矛先は僕ではなく、僕の横に座っている凪波に向けられた。

「あなたがついていながら、どうしてこんなことになったの?」
「申し訳ございません……」

凪波が、深々と頭を下げた。
凪波の表情は、髪に隠れて僕からは見えなかった。

「はぁ……。あれだけ、一路の女スキャンダルには気をつけてくれと言ったじゃない」

ん?
どういうことだ?

「申し訳ございません」

凪波は、ただひたすら社長に向かって謝るだけ。

「あの……僕のスキャンダルに気をつけろって、一体……」

僕の質問に、社長は目を丸くした。

「畑野……もしかしてあなた、何も言ってないの?」
「余計なことを耳に入れない方が、仕事に集中してもらえるかと思いましたので」
「だからって……タレントに自覚をさせるのも、マネージャーとしてのあなたの仕事だと説明したはずでしょう!?」
「……申し訳ございません……」
「全く……せっかく専属までつけて一路の私生活を徹底的に管理させたのに……結局水の泡じゃない……」

どんどん2人の間で話が進んでいく。
そして目の前で繰り広げられてるのは、凪波への社長からの攻撃。

「あなたがちっとも役者として目が出ない中で、ここまで世話してあげたのに……こんな形でしか返してくれないわけ?見損なったわ」
「申し訳ございません」
「……あなた、さっきから申し訳ございませんしか言ってないけど……それしか言うことがないの?」
「申し訳……ございません……」

社長は、凪波の顔を覗き込みながら

「あなた、口先だけの演技のテクニックだけは持ってるから、本当に感情があるか分からないのよね」

と言いながら、凪波の目の前に数枚の写真を無造作に広げた。