Side朔夜

毎日、凪波を抱きたい。
これが、凪波に同棲を持ちかけた理由。
シンプルな欲望ではあるが、これだけで充分だと思っていた。
他人と暮らすこと自体は、孤児院時代に慣れてはいた。
違うのは、あの頃はできれば関わりたくないと思っていた人間たちとの共同生活だったが、凪波はまさに片時も離れたくない、初めての存在だった。
だから、陳腐なセリフをあえて使うとすれば、薔薇色の日常が待っていると思っていた。

ところが、実際は違った。
まず、立場が違う。
一緒に暮らし始めた最初の方はまだ良かった。
凪波は、僕の専属マネージャーとして働いていたから、ほとんどの現場は凪波も一緒に行動していた。
勿論、外では決して恋人感は出さないという条件だったから、恋人でいられたのは1日の内、睡眠時間を差し引いたら3時間もなかったかもしれない。

でも、それでも充分すぎる程幸せだった。
凪波の息遣いを感じたし、彼女が何を見ているのか逐一見つめることができたから。

それが、ある日突然変わってしまった。
きっかけは、彼女が僕のマネージャーを辞めてしまってから。