Side朔夜

1年ほど前のこと。
幼馴染の恋愛がテーマのアニメを演じた。
その時、僕は主役で、幼馴染をずっと想い続けるという話だ。

僕が演じた彼は、20年以上、幼馴染を想い続けていた。
例え、その間に幼馴染が別の恋人を作ったとしても、不器用なまでに幼馴染だけを思い続けるという話。

そもそも、幼馴染とはどういうものなのか……。
僕は、そんな存在を知らなかった。
なので、役作りの時にとても困ってしまった。
知らないから、理解できないから。

「どうしたの?」

家で悩んでいると、いつものように凪波が話しかけてきた。
僕が台本を見せると、凪波は少しだけ困った風な様子で考えてから、口を開いた。

「私の幼馴染は……」

という出だしだった。
彼女が過去のことを話したのは、思えば……この時が最初だった。

「自分という人間を語る上で外せない存在である」
「側にいるのは当たり前すぎて、大切さに気づかなかった」
「失って初めて、その人の存在の偉大さに気づいた」

そんな内容だった。
彼女がこの時話した内容が、役作りをする上でとても重要な要素になったのだが……僕はこの時、幼馴染の性別は特に気にしなかった。
女だろう、と勝手に思い込むようにしていた。

僕の中で、凪波の幼馴染という存在に対して感情が芽生えたのが……まさに、彼女が僕の前から、さっと消えてしまった後。
彼女の居場所を求めて情報を集めていた時に見つけたのが、海原朝陽という名前。

人当たりが良い。
犬のよう。
騙されやすそう。
馬鹿な話しかしてこない。
ウザイと思う事もあった。
だけど、いざ離れるとやっぱり寂しい。

そんな風に凪波が語っていた幼馴染の像と、海原朝陽がリンクしてしまう。
僕は凪波の中に潜む僕以外の男の影に、ひどく嫉妬する。
僕以外の男に恋愛感情を持ったことがなかったと、凪波は言ってくれていたけれど。
僕にとっては、僕以外の男に何らかの感情を持つということそのものが、許せなかった。

だけど。
今こうして、海原朝陽に自分の弱さをさらけ出してしまう。
この世界で最も、負けたくないと思っていたはずの人間に、僕は自分が持つ全てのプライドをかなぐり捨てて、縋りついた。

それはきっと。
凪波が語ったあの幼馴染像を海原朝陽が本当に同一人物であれば、きっと教えてくれるかもしれないと、思ったのかもしれない。
願ったのかもしれない。
僕には決して見せてくれなかった彼女の、悲しみや苦しみといった……負の本音を、こいつなら知っているかもしれない、と。