Side悠木

「それからは、早かった。

まずはインタビューをさせてもらうことにした。

彼女に、これまで起きたことを全て……ね。

……何故かって?

実験をするからには、勿論論文を書くのは必須になる。

論文執筆に必須なのは、まず仮説だ。

この実験は、どの仮説を証明するために行うのか。

そして、仮説を発見するためには、何を発見することが必要なのかを決めなくてはいけない。

発見するためには、どういう実件方法が良いのかも、そこから導かなくてはいけない。

科学を発展の裏には、こうした先人達の地道な準備の連続の積み重ねがある。

頭が下がる思いだな。

だから私も、仮説を立てるためには出来る限りの情報を集めるようにしているよ。

勿論、凪波さんは……最初は拒絶した。

自分の全てを曝け出すのは耐えられない、と言った。

だが、私はね……諦めの悪い男なんだ。

少しだけ、強引な手法を用いたが、彼女の全てを聞き出すことに成功した。

その方法については、この話題に関係ないから割愛させてもらう。

ただ、ここで、君たちに伝えるべきことだけ伝えることにする。

私は全てを聞いてから、この実験について、こう仮説を立てた。

畑野凪波さんは、この実験の結果、人格障害に陥る可能性が十分に考えられる。

唯一それを回避できる方法は……彼女が戻りたい時代に戻り、彼女が当時欲しかったものを与えられること。

だが、それは与えられず、結果的に彼女の海馬に大きなダメージだけが、残った。

改めて、君たちに伝えよう。

君たちが知っている畑野凪波さんという人物は、もうこの世界のどこにもいない……とね」