Side凪波

夜。駅の中にある、喫茶店とバー、両方の役割を持つ店で、私はかつての親友ときていた。
「いや〜お疲れちゃ〜ん」
いつでもどこでもゆる〜い口調なのは、藤岡実鳥。高校時代は一緒にBL本を語り合った仲。

「結婚できなかったら、一緒にヲタ友として老後を暮らそうね」

と語り合っていたほどで、正直1番結婚には程遠い人間だと、親友ながら思っていた。しかし……

「いやー結婚してた時は夜で歩くこともできなかったしねー久々に羽のばせんのは嬉しいわ〜。息子も実家に面倒見てもらえてるし……バツイチ万歳!」

なんと、私達のクラスメイトの中で最も早く結婚し、そしてすぐに離婚をしたという。
朝陽から聞いた情報では、高校卒業後すぐに働いた会社で出会った人と、できちゃった婚だったらしい。でも、相手の家とうまくいかなくて、子供が生まれてすぐに実家に戻ってきたと……その当時、ちょっと話題だったとも言っていた。

「それに、凪波とこうやって酒飲めるしねー。葉(よう)がおっぱい卒業してくれてよかったよかった」
葉というのは、実鳥の子供の名前。自分の名前が実と鳥だから、それにくっつく葉を名前にしたらしい。単純そうに見えるが、私は実鳥らしい良い名付けだな……と思ったが、やっぱりまだ「ドラマのような出来事」のようにしか思えないのが申し訳なかった。

「でもさ、まさか私が、あんたのウエディングドレス選ぶ手伝いができるなんて、ほんと思わんかったわ」
「ごめんね……私は、入籍だけで良いって言ったんだけどね」
「いやいや、あいつにとっちゃ、念願だったからねぇ」
「え?」
「え?って……まさか、ほんっとにあんた、あいつの気持ち気づいてなかったわけ?」
「あいつって……朝陽のって……こと?」

私がそう言うと、実鳥は大きくため息をつく。

「さすがにこれは、あいつに同情するわ……あんなにバレバレだったのに……」
「あ、そ、そうなんだ……?」
「まあ、あん時は私ら、BL本に夢中だったし、夢女子じゃなかったから分からなくても仕方がないか」

BL本のせいにしても、これはいいことなんだろうか?