Side悠木

「その時の彼女の表情から、何を本当に聞きたいのかは見えなかった。

私は、あくまで辞書の意味として、こう答えた。

共同体として、生活を共にする二親と、その子供からできる集団。

これが、一般的に言われている定義だ、と。

彼女はそれに対してこう言った。

つまり、子供がいないと、家族にはなれないんですよね、と。

私は、あくまでも辞書の中だけの話だ、と返すだけにした。

こういう家族論は、下手に語るべきではないからね。

私の回答が、彼女にとって満足いくものではなかったことは、何となく彼女の表情からは察したがね。

……それから、また少し間ができた。

無言のね。

私は、空になっているマグカップに気づいたから、ホットミルクのおかわりはいるかい、と聞いた。

凪波さんは、ミルクはもういいから、とびきり苦いコーヒーが欲しい、とリクエストしてきた。

さすがに、覚醒効果があるカフェインを摂取させるわけにはいかないからね。

丁寧に、お断りさせてもらった。

その代わり、私は水を持ってこさせた。

ウォーターピッチャーごと。

そうすれば、水を飲みたい分だけ自分で注ぐことができるからね。

凪波さんは、すぐに水をマグカップに注いで、一気に口に含んだ。

それから、しばらく口うがいをして、飲み込んだ。

それを、ウォーターピッチャーの中の水がなくなるまで繰り返し続けていた。

口の中から、牛乳の味を消したかったのだろうか、と私は察した。

甘くて優しい……母親の味を……ね」