Side悠木

「君達は、彼女の呪いの言葉を知りたいのかい?

……いや、私の口からは話せない。

それよりも先に、続きを話そう。

あの日……凪波さんが目を覚ました日のことを。

その日は……綺麗に晴れていた。

雲1つない、真っ青な宇宙が私達の前に広がっていた。

空気も、珍しく澄んでいた。

呼吸をするのが、久しぶりに楽だと感じた日だったかな……。

凪波さんは目を覚ました。

何の兆候もなく、突然に。

彼女は、じっと私を見た。

死者と同じような、光が宿らぬ目で。

そして、ゆっくりと、か細い声で聞いてきた。

ここは、地獄ですか?と。

私は、違うと答えた。

それ以外は、何も言わずに。

……それから、しばらく彼女は俯き、黙っていた。

私は、彼女の次の言葉を、ただ待った。

決して急かすことは、しなかった。

彼女の脳の中で、彼女自身の言葉が形になるのをじっと、待ち続けた。

彼女が目覚めた部屋の窓からは、空だけがはっきりと見える構造になっている。

気になるかい?

後で、山田に案内させよう。

そこは、仰向けになっていれば、余計なものが一切目に入らない。

昼間は、太陽の光が。

夜は月と星の光だけが、側にいてくれる……そんな場所だ。

彼女が私に、次の言葉を話したのは新月の夜……星が一段と輝きを増していた日のこと。

私は、山田にホットミルクを2人分用意させて、一緒にその部屋で星見をさせてもらうことにした。

その頃には、凪波さんは飲み物だけは、どうにか口にできるようになっていた。

固形物は、食べても戻してしまうようだったから、点滴は続けたけどね。

しかもそのホットミルクは、この近くにある牧場からの搾りたての牛乳を温めたものだ。

絶品だよ。

君たちにも味わってもらいたいものだ。

……ああ、いけないね。

ついまた、話が逸れてしまう。

私の悪すぎる癖だ。

よく……怒られたな……話しすぎだと……。

さて……そのホットミルクにはどうも不思議な力があったみたいだ。

彼女は一口飲むと、こう言った。

美味しい……と。

それが……私が聞いた2つ目の言葉だった。

美味しい、美味しいと言いながら、彼女は宇宙を見ながらまた、泣き始めた。

私も、美味しいとだけ彼女に応え、彼女はそれに対して小さく頷いた。

それから凪波さんは、少しずつだが、断片的に何があったか話をしてくれた。

何故、あの日あの崖にいたのかをね……」