Side朝陽

「先生、どういうことですか。こいつと……一路と過ごした記憶を忘れてくれって……本当に凪波はそんなことを……」
「おや?君にとってはその方が都合が良いのではないか?」
「茶化さないでくれ、先生。凪波は……記憶を消したいと、確かにそう言ったのか」
「言った」
「いつ、どこで!」
「いつか……と聞かれるとそうだな……君達と、あの病院で出会うよりはずっと前……かな」

それを聞き、ぴくりと、一路の肩が動いたのが見えた。
心当たりが……あるのか?

「そして、どこか……についてはそうだな……。君達は、この家の裏に何があるか、知っているか?」
「……いや……」
「崖、そして……まるで全てのものを飲み込むかのような、広くて、深い海。あそこから海に落ちたら、まずは助からないだろう。だから、わざわざこんなところに来る人間の理由は、たった1つ」

悠木は、懐から手のひらサイズの小さな手帳を取り出した。
そこに書かれていたのは……。

「母子……手帳……」
「私が凪波さんを見つけた時は、まさにこれを置いて崖の上から飛び降りようとしていた時だった。今でも覚えている。彼女と初めて会った日のことは……」