Side朝陽

「なんだ……これ……」

急にテレポートでもしたかのようだった。
今までいた、無機質な空間から一変して、ピンク色の世界が広がった。

「ARの技術を融合して、今の凪波さんの脳を君達に見せている」
「凪波の、脳……?」

そう言われてみると、確かに曲線になった溝のようなものが走っている。

「私達がちょうど立っている場所は、海馬と言う。君たちは、海馬とは何か知っているかい?」

悠木の問いかけに、俺は答えられない。
脳のことなんて、高校1年の時にちょっと生物の授業で見たくらいだ。
あとは……気味が悪い小学校に置いてあった人体模型くらいか……。
思い出すだけで、やはりゾッとする。

一路は壁に寄りかかったまま、何かを考えているようだったが、答えなかった。

「あの……」

藤岡が、おそるおそる手を挙げた。

「悠木先生は記憶操作のスペシャリストとお伺いしてます……。なので記憶に関することなのではないか……と……」
「ほう……君は……」

そうだ。この2人は初対面だ。

「彼女は凪波の親友で、俺の部下です」
「ほう……」

悠木先生は、じっと藤岡の全身をくまなく見ている。

「君は……どこかで会ったことがあるかね?」
「……いえ……」

藤岡の顔が、強張っている。
無理もない……あんな風に観察されたら、俺だってああなってしまうだろう。

「ふむ……まあ良いだろう。君の言う通りだ。海馬は記憶の司令塔と呼ばれる部位で、主に新しい記憶を長期的に残すための重要な役割をしている。記憶の整理をになっている、高性能だが非常に繊細な場所だ。ここを見たまえ」

悠木が指をさした先には、何か電子チップのようなものが埋められている。

「これが今、凪波さんの脳に入っている」
「これは……」
「私が開発した、海馬をコントロールし、必要な記憶だけを残し、それ以外を忘れることができる特別な電子チップだ。私は凪波さんからの依頼で、このチップを彼女の脳の中に入れた」