Side朝陽

まずい。

「先生!俺がこいつを抑えますから、それしまってください」
「離せ……!海原……!!君もこいつの味方をするのか!?」

あんなに俺に対して、ムカつく程にすかした顔をしていた一路の変貌ぶりに、俺は恐怖すら覚えていた。だけど……。

「おい、落ち着いてくれ!!!」
「君は、凪波をあんな風にされて何も思わないのか!だからそんな風に冷静でいられるんだろう!?」
「冷静でいられるわけないだろ!?」

俺は、すでに見た目が痛々しく傷ついている一路に蹴りを入れることをためらった代わりに、自分が持つ全ての力で近くにあった壁に一路を押し付けた。

一路の目に、俺がしっかり入っているのを確認してから、俺は一路に言い聞かせるように言ってやった。

「冷静でいられたら、そもそも、こんなところにいない」
「どういう意味だ」

一路の声に、ほんの少し芯が戻った。

「俺はな、一路……心底お前に腹が立っている……できることならお前を何度も、何度もぶん殴りたい気持ちを、必死で抑えてる。……どうしてかわかるか?」

一路は、何も答えない。
でも、俺を真っ直ぐ見ている。
俺も、一路をしっかり見ている。

「凪波を、ちゃんと取り戻したいからだ。その為に……俺は……やらないといけないことがある」

俺たち、とは言ってやらなかった。あえて。
俺は、一路がもう暴れないという確信を持ったので、一路から手を話した。

そして、今1番向き合わないといけない相手を真正面に見た。

「悠木先生。俺は、あなたの話をまず聞きます。教えてください。凪波がどうして……あんな姿になったのかを」

俺の言葉を聞いた悠木先生は、ほんの少し口角をあげただけの微笑みを浮かべてから、持っていた注射器を懐にしまった。

「君という男は……どんなに感情を揺さぶる出来事があったとしても、最後の最後では冷静を取り戻せるんだな。海原くん。私は、とても君が羨ましいよ」

悠木先生はそう言うと、壁際にあったスイッチを押した。