Side朔夜

気がつけば、また機械の音に囲まれていた。
暗くて、悲しい空間が、虚しく広がっている。

僕はまた、夢を見させられていたのか……。
記憶の奥底に封印されていた、悪夢を。

「……凪波……凪波!?」
僕は、はっとしてガラスの向こう側を見る。
愛する人は、微動だにせず、眠っているだけ。
先ほど部屋中に満ちたDangerの音は、消えていた。
心臓が動いていることだけは、機械が教えてくれている。

ほっと、小さくため息をついた後、また僕はその場に座り込んだ。
脳が揺さぶられるかのように、頭がぐらぐらする。
過去と今を、さっきからずっとループさせられている気がする……。

孤児院時代までの記憶は、凪波と共に過ごす内に、なかったことにできたはずだった。
凪波との生活で書き換えられた……はずだった。

「綺麗な顔で生まれてよかったな」

僕の体をアザだらけになるまで殴った子供がいた。

「どうして私を受け入れてくれないの?」

僕が何もしていないのに関わらず、悪意ある噂を広めた女がいた。

そうやって、僕は、僕にはどうにもならない理由だけで、人間社会で生きていくことを排除させられ続けた。

好きでこんな顔に産まれたわけではない。
好きで、産まれたわけじゃない。
僕は、好きでこの世界に存在している訳ではないんだ!!

そんな事を考えていた昔の僕を、悠木は……引き摺り出した。

苦しい。
胸が痛い。
吐きそう。
嫌だ。
ここにいたくない。
やめろ。
お願いだ。
こんな僕を、見ないで。

僕は、気持ち悪く流れてくる脳の映像をシャットダウンしたくて、ガラスに頭をぶつけた。
何度も、何度も。
赤い血が、僕の頬から滴り落ちて地面を濡らしていく。

この血と一緒に、僕の過去も一緒に流れていけば良いのに……。

そんなことを思っていた時だった。
重く閉ざされていたはずの扉が開き、今1番この場に来て欲しくはなかった男が入ってきたのは。