Side朝陽

凪波には、妊娠の事実があったことは、言わないようにしよう。
この話は、ここだけにしよう。
いくら体が大人になったとはいえ、記憶がない期間の中で

「実は子供ができていたんです」
「でも流産しています」

は流石に過酷すぎる……。

おばさんは「あの子は、家に戻します」と泣いた。
おじさんは黙ってそれを聞いていた。

俺は「知らない人だと思われた」と言う事実がただただ苦しかった。


それから数日後。
検査のための入院が終わり、凪波は自宅へと連れていかれた。
俺は、農作業が終わった後、シャワーを浴びてから毎日凪波の家に通うようにした。
それは、もちろん凪波のことが心配だったからと言うのもあるが……。


「ねえ、どうしてなの?」
「お母さんの言う通りにしないから、そんな目にあうのよ」

などと、入院中や帰宅時に、おばさんが凪波に対して詰め寄っていた。

俺は知っていた。
凪波がおばさんの「そういうところ」が嫌になっていたことを。




1度だけ……俺にとっては遠い記憶、凪波にとってはきっと最近の記憶の中で。
「お母さんが、私の自由を奪おうとするんだよね」
「どういうこと?」
俺はその言葉を……凪波のその言い回しが漫画っぽいな〜くらいにしか、当時は思わなかった。
今思えばそれは、いなくなるためのフラグだったのかもしれない。
「思いっきり、自分がやりたいことしたいなーって思ってるの」
とも言っていたから。

どうして、あの時真剣に受け止めなかったのかと、後悔した時はもう遅かった。




だからだろうか。嫌な予感がしていた。
もちろん凪波に会えれば良いという気持ちもあるにはあったが。
何よりも今は凪波のメンタルが心配だった。


俺のメンタルなんて、その次でいい。