Side朝陽

日の光が差さない真っ暗闇に、小さな光が青白く光だけの空間。
壁も、床も、何もかもが、本当の色など分からない。
病院で嗅いだのとはまた違う、ツーンとする消毒液のにおいが、この空間が現実世界だと教えてくれる。

ふと。
小学生の頃、忘れ物を取りに内緒で校舎に侵入した時のことを思い出す。
夕日の真っ赤な光だけが教室に入り込んでいた。
そして教室のほとんどは、闇に食われていた。
いつも通っていたはずの、見慣れた場所が、急に化け物の住処になってしまった気がして、一目散に逃げ出した。

得体の知れない何かが、俺をも何かに変えてしまうのではないか。

大人になってみると、そんなこと思うなんてバカバカしいと、笑い話にすらできる、些細な出来事……だっただろう。


だけど。
今、俺は。
些細だと信じたかった、恐ろしすぎる光景を目の当たりにしている。

悠木先生の後について歩いてから、ほんの1分もしない内に、明らかに頑丈に作られたとわかる、鉄の扉があった。

重苦しい扉を悠木先生が軽やかに開けた。
その瞬間、目に入った光景。
きっと、死ぬまで脳にこびりついて離れてはくれない。

思い出しては、脳を削りたくなる、そんな記憶へと一瞬にして変えられてしまった。

「ひゃっ……!!!」

藤岡は、葉の顔を胸に押し付け、自分も目を伏せてしまう程の惨状。
俺は、込み上げてくる吐き気を耐えるので精一杯。

その部屋は、透明のガラス窓によって二分されていた。

ガラスの手前にいたのは、頭から血を流してぶつぶつと何かを言いながら仰向けになっている、一路朔夜の姿。

そしてガラスの奥にいたのは……。

「凪波……なのか……?」

あの再会の日のように、顔は白く、まぶたは重く閉ざされた凪波。
ただ、あの日と違うのは……。