Side朝陽

ぎぎっ……という、鈍い音の先に広がるのは、無機質な廊下。
これまでいた、日光を歓迎する空間とは一変し、光という光を全て遮断するような、窓1つない造りとなっている。
小さな青白いLEDが天井近くの壁に点々とついてる。
まるで蛍のようにも見えるその光だけが、道標になっている。

「お入りください」

山田さんは、俺達に中に入るように促すが……。
え?ここに入るの……?
お化け屋敷に入る直前と、同じような恐怖が広がる。
藤岡は大丈夫か………。
ちらと横を見ると、決意を固めたような表情をしていた。

「行くか……?」

俺は聞く。
きっと、俺への励ましの言葉が出てくるだろうと、心の中で勝手に考えていた。
しかし、藤岡が言ったのは全く別のこと。

「海原さあ……葉、預かっててくんないかな?」
「え?」

葉を預かって。
それはつまり……。

「ここに残れって、こと?」
「そう」
「何で……」
「葉が、心配だから」
「じゃあ、藤岡が残ればいいだろう」
「私は、行く」

藤岡の言葉は、まるで何らかの決意が込められているようだった。

「……俺も行かないといけない」
「……そっか」

あっさりと、藤岡は自分の提案を引っ込め、腕に抱えている葉に

「しっかりママに捕まってるんだよ」

と声をかけていた。
きっと、ここでも藤岡に、俺は気を遣わせたのだ。
俺は、ひよっていた自分の気持ちを叩き直すため、両頬を叩く。

「行こう」

そう言って、俺は自分を奮い立たせながら一歩を踏み出した。
藤岡も、同じように踏み出した。
しかし……もう1人、来るべき人間の足跡が、聞こえない。

ぎぎっと、扉が閉まる音がする。
山田さんが、扉の向こうに、消えていく。


「ちょっ!山田さん!!!」

俺が扉に駆け寄ると同時に、扉が無常にも閉ざされる。

「山田さん!!山田さん!!??」
「……閉じ込められた……?」

俺たちが狼狽えていると

「山田が去ったのは、もう役目を終えたからだ。また次の仕事をしてくれないと困るからね」

背後から、声がした。
俺たちが、探していた声。
聞けば安心すると、思い込んでいたはずの声。
今、俺はその声を聞き、背筋が凍るような感覚に襲われている。

恐る恐る、振り返る。
見たくないけど、つい見たくなる。
向き合いたくないけど、向き合わなくてはいけない。
そんな何かと対峙する時の気持ちに、似ている。

「やあ、よく来たね」

向き合ったその人は、確かに、俺が信じていたはずの人。
その笑顔を見るだけで、安心だと思っていた時期も、確かにあったけれど、今は……。

「先生、お久しぶりです」

声が裏返るほどには、緊張してしまっている。