Side実鳥

どうして、人は、何かをしてしまったあとに後悔をするのか。
後悔をするくらいなら、最初からしなければ良いのに。
旦那のこともそうだ。
女遊びが大好きだったのは、初めて会った時から。
私もそんな遊び相手の1人に過ぎなかったと知ったのは、たった1回のセックスで葉を妊娠したと分かった時。

あいつが私と結婚したのは、ただ、世間体だけだった。
親が言うから。
親戚が怖いから。
全部を他人のせいにして、しまいには

「お前が妊娠なんかしたせいだろう」

とまで言われた。
その癖自分は、自分は無理矢理結婚させられたんだ……という被害者ヅラをして、次から次へと女の子に手を出していき、また若い女の子を妊娠させていた。

そういう男ほど、外堀を埋めるのがうまい。

「嫁のあんたが、旦那の心をつかまないのが悪い!」

この妊娠騒動の時に姑から言われた言葉は、もう一生忘れないだろう。
人は都合の悪いことは、簡単に事実をねじ曲げて記憶をする。
私の社会人人生は、そんなことばかり。

だからだろう。

「おう、藤岡。今日もよろしくな」
「本当に、頼りにしてるからな」
「ありがとな。お前がいてくれて……よかった」
「葉はどうした?あいつと一緒に、母さんが作ったパイでも食べようと思ってさ」

そんな優しい言葉を毎日浴びせられたら、勘違いをしても仕方がない。

そう、これは、ただの勘違い。
私の心が創り出した、まやかし。

「藤岡……お前……」

このキスは、衝動的。
きっと、いつか後悔する。
でも、この時はそれをせずには居られない。
私は、せずにはいられなかった。

「……うるさい口を塞いだだけ。深い意味は、ないから」
「……そうか……」

海原は、それ以上何も言わなかった。
聞いてはくれなかった。



それから、私たちは言葉を交わすのをやめた。
車の揺れを感じながら、私は暗闇に凪波の姿を見ていた。

ねえ、凪波。
私は、海原とあんたが幸せになることは、本当に良いことなんだよ。
それが、1番正しいことだと、思うんだ。
どんなに過去、後悔をすることをしたとしても、努力をすれば、いつかは報われる。
そんなお伽話が現実に起こったら、それこそ本当に祝福されるべき道だと思うから。

だからお願い。
一路朔夜を、諦めて。
海原を、選んで。


そう願った時。
車が、止まった。
扉が開いた音と同時に

「どうぞ、アイマスクをお外しください」

と、山田という男の声がした。
ゆっくり外すと、急に光が目に入ってきた。
少しずつ、目が慣れていくのを待つ。

あれ、何……?
建物……?
レンガで出来ている……?

徐々に輪郭を取り戻していく私の視界。
それがはっきりした時、その場所を知っていることを思い出した!


「こ、ここって……!!!!」

急いでスマホに、心当たりがあるワードを入力する。

「藤岡どうした……!?」

海原も、アイマスクを外し終えて視界を取り戻していたのか、私が操作するスマホに目線を合わせていた。

「ねえ海原。あの……映像の人、悠木先生って言うんだよね……?」
「あ、ああ……」
「山田って人は、清って言った?間違いない?」
「そうだけど……どうしたんだ?」

悠木清。
ずっと、引っかかってた名前。
もしかすると、普通にある名前なのかもしれないと、気にしないようにしていたけれど、この場所を見て確信した。

「あった……!!!!」

私は、見つけた画面を海原に見せる。

「これ……!!」

それは、英語で書かれたニュース記事。
タイトルは……奇跡を創りし者。



next memory...