Side朝陽

山田さんが、ポケットから何かのリモコンらしきものを取り出し、ボタンを押した。

すると、リムジンの真上に広がる空間に、突如として映像が現れた。
いつもの白衣姿の悠木先生と……少し離れたところに別の男が見えた。
よく分からない……機械らしきものも、背景に少しだけ映し出されている。
医療機器……のような気もするが、少なくとも凪波の病院であんなものは見たことはない。

「やばっ……こんなの、もうアニメだよ……」

藤岡も口をあんぐりさせている。
葉は少し怯えた様子で、藤岡の背中に隠れた。

「こちらはリアルタイムの映像でございます。会話もできますので、どうぞ」

と山田さんは俺にリモコンの先を向ける。
そこに、マイクがあるのだろう……。

「悠木先生……今、どちらにいるんですか」
「それは言えないな。知りたければ、リムジンに乗りたまえ」
「本当に、そこに一路朔夜はいるんですね……?」
「映っているだろう?」

映っては、いる。男は。
でも、俯いており、表情も分からない。

「先生」
「何だね」
「凪波はいるんですか?」
「ああ」
「凪波を、この映像に出してもらうことはできますか」
「それはできない相談だ」
「どうして……!」

俺がそう言った途端、映像が乱れ始めた。

「まず……な……あ……が……き……」

狼狽えた様子ではないが、何かを思案した表情を悠木先生は見せる。
声は、途切れ途切れにしか聞こえなくなっている。
映像はぱっと消え、最後に
「山田!」
とだけ、悠木先生の声が響いた。
「御意」

と、山田さんは、先ほどまで映像が表示されていた場所に向けて、一礼をして、再び俺たちに向き直った。

「さあ、海原様。清様がお待ちです」

確かに、これを証拠と言わずに何を証拠というのか。

「リムジンに、乗られますか?」
「これに乗らなかった場合、俺たちはどうなる」
「ただ、ホテルにお戻りいただくだけです。ただし……」

山田さんは、少し間を空けてから、衝撃的な事を言う。

「もう2度と、婚約者の方にはお会いできなくなりますが」