Side朝陽

「おい、やめろ!!」

葉を殴りそうになっている藤岡を止めようと、藤岡の手首を掴んだ。
その時、全く同時に

「おやおや、どうしました?」
「山田さん……」

山田さんが、泣いている葉をひょいっと抱き上げた。
最初、葉はびっくりした様子だったが、山田さんに肩車をされて、機嫌が良くなり、満面の笑みを浮かべている。

「きゃっきゃっ!!」

葉は、山田さんの髪の毛を引っ張り始める。

「おい!葉!」

俺は葉を止めようとしたが、山田さんが俺の方を見て首を横に振る。
それから藤岡を見て

「とても良い子ではないですか」

と、優しげな眼差しで言った。

「あの……」

「良く、育てましたね、お母さんがんばりました」

山田さんがそう言うと、藤岡は、体から力を抜けたのか、床に座り込んでしまった。
俺も、藤岡に合わせてしゃがみ込む。

「おい藤岡、大丈夫か!?」

藤岡はこくり、と頷いたものの、はっと何かを思い出したように俺に掴みかかった。

「おい!何する……!」
「一路朔夜!ここにいた!!いたの!!」
「何だって!?本当か!?」
「うん!さっきの女の子達が教えてくれて……でも葉のせいでこんなことになって……」

ロビーで騒ぎを起こした事と、目撃者に逃げられた事を指しているのだろう。
俺は、落ちこんでいる藤岡の肩をぽんっと叩き

「まだ近くにいるかもしれない!俺、探してくる」

と、立ち上がった。その時。

「その必要はございません」

突然、山田さんがそう言った。

「必要が……ないとは……」

俺が尋ねると、山田さんは表情を崩さずにこう言った。
葉を、降ろさないまま。

「清様の所にお連れします。一路様もそこにおります」