Side実鳥

こんなはずじゃなかった。
どうして私は、本当に最後の最後で詰めを誤ってしまうのか。


一路朔夜は、頭に包帯を巻いた女を探していた。
海原は凪波は頭を怪我している、と言っていた。

「ねえ、それで、あなたは見たの?その女の人」

つい、身を乗り出して聞いてしまう。

「えっあの……」

と、引かれてしまったが。
すると突然

「きゃああ!」

と女性が叫んだ。
きゃはははと笑いながら、葉が女性のカバンについている缶バッジを引っ張っている。

しまった……!

私は葉を引き剥がそうとするが、葉はその缶バッジを気に入ったのか、手を離そうとしない。
女性は、明らかに嫌そうな顔をしている。

まずい。
こういうヲタアイテム。
わかる人にはわかる。
これは聖具なのだ。
聖域といっても過言ではない。
他者に触れられる事は、決して許されない。

「こら葉!手を離しなさい!ごめんなさいうちの子が……。あ、こら葉!それはお姉さんの大事なものよ!」

言葉で言い聞かせようとするが、葉は全く受け入れてくれない。
それどころか、負けじと力を入れてくる。

「こら葉!」
「やだやだ!」

その駄々の捏ね方がまずかった。
缶バッチが女性の鞄から、安全ピンを残したまま剥がれてしまった。

「きゃっ!!!」

女性が悲鳴をあげる。
葉は欲しかったものを手に入れた喜びで、きゃっきゃっと自慢げに私に見せてくる。
私は、そんな無邪気な葉の頬を、思いっきり叩いた。

人の事を考えず、見ず、ただ自分が欲しいものだけを手に入れようとして周囲を不幸にした男を私は知っている。
その男と同じ事を、自分の血を引く息子がしたという事実は、私の心に重くのしかかった。